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もうひとつは、「あのこと」と言われた途端に自分の中に何か思い当たることがあって、あのことをしていなかった、これは大変だと思ったために、不愉快な感じをもたれたということもあるようです。

これについては大変おもしろい経験をしたことがあります。

ある県の医師会で話をしたときに、参加なさった先生方に「お立ちになって、『あのことは?』と聞いてみて下さい」と申しあげたら、大変ご立腹なさった方がおられました。話を聞きにきたつもりなのに、何かをさせられたから気分を悪くなさったのかなと思いましたら、あとから伺った話では、私は“あの事”という出来事のつもりで尋ねたのですが、その先生は“あの娘(こ)とは”とおとりになったのだそうです(笑い)。お隣の方に、「あの娘(こ)とはどうなっていますか」と突然言われたりすれば、プライバシーに関することで、しかもドキンとするようなことがあれば、ムッとされるのも当然だと思いました。

これはコミュニケーションの上で重要なことを示唆しています。こちらは全く意図したことではなくても、相手の方が聞き間違うとか、意味を違ってとる可能性があるということ。その方にはいやな思いをさせて申し訳なかったのですが、私自身たいへんいい勉強になりました。それからあとは、こちらが全く何気なく言ったつもりでも、お聞きになる方によっては「あの娘(こ)とはどうなってるの?」ととられる可能性があることを考えて、この逸話をいつもご披露することにしています。

 

 

 

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