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フィールドワークフェローシップに参加して

 

山中 隆夫(香川医科大学4年)

“Emergency Call”という映画化された小説がある。フィリピンのトンド地区の救急医療にたずさわる日本人医師を描いたものだ。医師たちは稼ぎのいいアメリカ合衆国へと流出し、医師不足にあえいでいる国。国自体が貧しさにあえぎながらも、なんとか人々は生活し、また、かつての日本にあったような活気・陽気さがある。医師としての給料は低いが、医療行為をして患者に喜ばれる、医師としてやりがいを感じさせてくれる国というイメージがわいてくる。

お茶の間のテレビで報道される医療協力は、人道的に緊急援助的な医療が非常に多い。このフェローシッププログラムに参加する前は、私は恥ずかしながら医療協力というのは、未だシュバイツアーのような人道的な支援が主体と思っていた。だからプログラムに参加する前には、フィリピンは大小の島々からなる国であり、地域により生活・社会状況が著しく異なる国でどのように医療がなされているのか、都市部の貧困層に対する医療はどのようになっているのか、また、母子保健施設訪問ができるため日本と比べて妊産婦死亡率280という高い値は何が原因なのか、といった事が見られたらいいなあ、と思って参加した。

国内での予備知識のための講義を受け、フィリピンでの医療保健施設を訪問見学して愕然とさせられたのは、医療は彼らのために彼らがする医療であり、先進国ができるのは技術移転、資金援助でしかなく、私が思っていたNGOなどで働く他国からの医療従事者による医療行為はむしろ少数派であり、外からの直接の医療協力がどれほど求められているか甚だ疑問であったことだ。また、現地のNGOにせよ、活動は非常に限られたものとなり限界を感じさせる。一個人がたとえ現地に飛び込んで行って医療協力といっても、できる事はたかが知れており組織的な、また経済的な裏付け(経済および社会政治的なサポートのみならず投資効果をふまえて)が重要であるように思われた。また、フィリピン人独自の医療保健供給体制を維持していくには教育が欠かせないものとなるだろう。

フィリピンは90%以上の識字率を占めるし、実際現地での青少年教育のプログラムを垣間見て30年前の日本を思わせるものがあり、決して教育に不熱心なわけではない。東南アジアヘの買売春が問題になり買春に対する法が立法化されたが、フィリピンは宗教的な問題があるのかもしれないが、アジアの他地区と比べて性行為感染症がそれほど多いわけではないことでも納得されよう。ただ、トイレなどの衛生面ではフィリピン人の習慣ということもあるが、未だ問題点が多く教育的に解決する事が望まれるよう。いずれにせよ、経済・教育・社会的状況を加味したシステム的な援助こそが求められている援助であり、個人的に医療援助する事は限界があると知った事こそが私にとっては、国際保健医療に対する最大の道標になったように思う。

 

 

 

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