4]民間医療
民間薬としての利用が確認されたのは、木本類2種、草本類7種の合計9種類である。最も一般的なのがゲンノショウコ(腹痛)、センブリ(胃病)、ドクダミの3種で、これらは5市1町すべてに伝承されており、地域によっては現在も採取して実用に供しているところがある。オオバコ(火傷)も比較的利用されているが、ニワトコ(神経痛)やツワブキ(腫れもの)、ユキノシタ(胃病)、ヨモギとモモのあわせ薬(あせも)にいたっては地域的にも限定された利用事例といえる。
5]娯楽
娯楽は、子どもの遊びに属するものがほとんどである。木本類(4種)よりも草本類(12種)の利用が多いのは、材料として扱いやすいことと遊び場周辺で常に身近な存在であったことによるものと考えられる。
遊びの内容については別項で詳しく述べるのでここではふれないが、聞きとり調査を通じて感じられたことは、植物を対象とする遊びにおいて女性の保有する伝承内容が男性のそれよりも豊かなことである。これは里山における自然遊びの一つの特性を示唆するものとして注目される。
6]その他
狭山丘陵とその周辺地域では、植物が杜会的規範の手段の一つとして利用されてきた事例が認められる。それは土地の境界をある特定の植物によって認識するもので、当該地域では表I-2-5に示すようにヤマ、耕作地、屋敷のそれぞれにおいて2〜5種の植物の利用が伝承されている。
これらの植物が選択された理由については明解な回答を得られなかったものの、伝承分布域の広いカマツカやガマズミ、ウツギは丘陵をとりまく5市1町の全域で普通にみられる種であり、こうした地域性および生育上の特性と何らかのかかわりがあるものと推察される。