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1994年、1995年のリスク構造調整は、旧西ドイツ地域に着目すると、次のような結果となっている。

第1に、1994年のリスク構造調整では、基礎賃金が低い金庫(地区疾病金庫と同業疾病金庫)と、被扶養者の割合が大きい金庫(連邦鉱山労働者)が調整交付金の受け手である。具体的にいうと、調整交付金は、地区疾病金庫が34億マルク、同業疾病金庫が1億マルク、連邦鉱山労働者が0.5億マルクを受け取る。一方、調整交付金の拠出者は、職員補充金庫、企業疾病金庫、労働者補充金庫であり、その額はそれぞれ、23億マルク、9億マルク、3億マルクである。

第2に、1995年のリスク構造調整では、基礎賃金が低い金庫(地区疾病金庫)と、高齢化率が高い金庫(連邦鉱山労働者)が調整交付金の受け手である。同業疾病金庫は、高齢化率が低いため調整交付金の拠出者になり、企業疾病金庫は高齢化率がやや高いことが働いて拠出額を大幅に軽減された。具体的には、調整交付金は、地区疾病金庫が99億マルク、連邦鉱山労働者が17億マルクを受け取る。一方、調整交付金の拠出は、職員補充金庫が96億マルク、労働者補充金庫が10億マルク、同業疾病金庫が6億マルク、企業疾病金庫が4億マルク、船員疾病金庫が1.6億マルクである。

第3に、もし介護保険にリスク構造調整が適用された場合どうなるかを考えるときには、1994年と1995年の財政調整の差、つまり年金受給者の医療費にかんするリスク構造調整がヒントになる。年金受給者の医療費にかんするリスク構造調整では、地区疾病金庫は65億マルク、連邦鉱山労働者は17億マルク、企業疾病金庫は5億マルクの調整交付金を新たに受け取り、同業疾病金庫は7億マルク、船員疾病金庫は1.6億マルク、労働者疾病金庫は7億マルク、職員補充金庫は73億マルクを新たに調整交付金として拠出する。

事後的な財政調整では、船員疾病金庫は交付金の受け手であった。ところが、リスク構造調整では、わずかとはいえ、船員疾病金庫は拠出する側に回る。船員疾病金庫の年金受給者の年齢構造が全金庫の年金受給者の平均的年齢構造に近いことを考えると、これは、船員疾病金庫は単独医療費分が多いことによると解釈できる(表3を参照のこと)。地区疾病金庫は、実際にかかった1人当たり医療費が平均よりも低く、かつ高齢化率も高いことを反映して、事後的な財政調整の場合よりもリスク構造調整のもとで多くの交付金を受ける。これは介護保険にリスク構造調整が導入された場合でも同じだろう。

 

IV わが国の公的介護保険制度案

わが国の公的介護保険制度案の財政調整はどのようになっているのだろうか。はじめに、特徴を要約しよう。

 

1. 介護保険制度案の特徴

第1に、保険者は市町村である。

第2に、被保険者は第1号被保険者と第2号被保険者の2種類である。第1号被保険者は65歳以上の者で、第2号被保険者は40歳以上65歳末満の医療保険加入者である。

第3に、総給付費の半分は、被保険者の保険料で調達する。1人当たりの保険料額は、第1号被保険者と第2号被保険者で同額となるように設定する。第1号被保険者については、年金からの特別徴収(全被保険者の7割程度)を行い、その他の者には市町村が個別徴収を行う。第2号被保険者については、医療保険者が徴収し、一括して支払い基金に納付し、これを各市町村の給付費にしめる割合が全国一律となるように各市町村に交付する。

 

 

 

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