それでは、事後的な財政調整はこの図式にしたがうと、どのように表すことができるのだろうか。
ここでwiを、i疾病金庫の被扶養者まで含めた被保険者1人当たり現実にかかった医療費の標準的な医療費との乖離とする。したがって、Tiをi疾病金庫の被扶養者まで含めた被保険者1人当たり現実にかかった医療費とすると、次のように書き表すことができる。Tは実際にかかった被扶養者まで含めた全疾病金庫の1人当たり平均医療費である。
Ti=(αi×wi)×B (3)
ここで、短期的には、
T=B=Γ×Y (4)
とおく。
事後的な財政調整のもとで、i疾病金庫への調整交付金―実際にかかった医療費から基本賃金総額に調整保険料率(あるいは連帯保険料率)をかけあわせたもの―は次のように表すことができる。
Ki=Ni×Ti−Γ×Mi×Ii
=Ni×B×(αi+wi)−Γ×Mi×Ii
=−Ni×B×(1−αi-wi)+Ni×B-Γ×Mi×Ii (5)
=−Ni×B×(1−αi-wi)+Γ×(Y×Ni-Mi×Ii)
(5)式から明らかなように、事後的な財政認整のもとで、調整交付金は、i疾病金庫の平均罹患率が平均とどれだけ異なるかという罹患率調整部分と、i疾病金庫の平均から乖離した単独医療費部分、そして現実の基本賃金総額が被扶養者も加味して調整した基本賃金総額とどれだけ異なるのかという基本賃金調整部分の3つからなる。
このことからすると、高齢化率が高いこと等によって、i疾病金庫の罹患率が平均罹患率よりも高い場合、調整交付金を受け取り、単独医療部分が大きい場合にも調撃交付金を受け取り、また被扶養者が多いかあるいは1人当たり基本賃金が低いことによって、i疾病金庫の現実の基本賃金総額が想定された基本貸金(Y×Ni)総額よりも少ない場合にも調整交付金を受け取る。
以上から明らかなように、リスク構造調整と事後的な財政調整との差が決定的に出るのは、wiの部分である。つまり、平均よりも単独に手厚い医療を実施していた金庫では、リスク構造調整のもとでは調整交付金が少なくなる。1978年から1994年まで実施された公的疾病保険の年金受給者医療費にかんする財政調整では、前述したように年金受給者1人当たり医療費の変動係数が急速に縮小した。このことは、i疾病金庫の平均から乖離した単独医療費部分wiの分散が急速に縮小したことを意味する。
表3は、1994年と1995年のリスク構造調整の速報値である。1994年には、年金受給者を除く被保険者でリスク構造調整が行われ、1995年からは年金受給者も含めたりスク構造調整が行われている。標準的なリスクを財政譲整の対象とすると、全被保険者を含めることが可能になり、年金受給者医療費の財政調整のようにわざわざ特別の会計をもつ必要がなくなる。