はじめに、リスク構造調整は、事後的な財政調整とはどこが決定的に違うのかを説明しよう。リスク構造調整では、被扶養者を含めた全被保険者にかかる標準的な医療サービスの総計を疾病金庫の財政力の総計(被扶養者を含めた全被保険者数×被扶養者を含めた全被保険者1人当たりの基本賃金=被扶養者を除外した全被保険者数×被扶養者を除外した全被保険者1人当たりの基本賃金=基本賃金総額)で除した割合を調整保険料率とする。各疾病金庫の調整交付金は次のようにして決まる。性や年齢構造にしたがって必要と計算された医療給付費から、各疾病金庫の基本賃金総額(各疾病金庫の被扶養者を除外した被保険者数×各疾病金庫の被扶養者を除外した被扶養者を含めた被保険者1人当たりの基本賃金)に調停保険料率をかけたものを差し引いたものが、調整交付金となる。調整交付金がプラスのときは、調整交付金を受けることであり、調整交付金がマイナスのときには調整交付金を拠出する。
調整交付金をさらに分解すれば次のようになる。基本的な考えかたはこうである。つまり、標準的な性や年齢構造をもった集団にかかる医療費は、全疾病金庫の1人当たり平均的な基本賃金を稼ぐ集団が拠出する保険料で賄われる。
B=Γ×Y (1)
ただし、
B: 標準的な性や年齢構造をもった疾病金庫の被扶養者を含めた被保険者1人当たり医療費
Γ: 調整保険料率
Y: 被扶養者を含めた被保険者1人当たりの平均基本賃金
Yi: i疾病金庫の被扶養者を含めた被保険者1人当たりの平均基本賃金
Ni: i疾病金庫の被扶養者を含めた被保険者数
αi: i疾病金庫の性や年齢構造が、標準的な性や年齢構造をもった疾病金庫のそれといかに異なるかの乖離の程度を、被扶養者を含めた被保険者1人当たりに換算したもの
ki: i疾病金庫の調整交付金
Mi: i疾病金庫の被扶養者を含めない被保険者数
Ii: i疾病金庫の被扶養者を含めない被保険者1人当たりの平均基本賃金
BOi: i疾病金庫の年金受給者1人当たり標準的な医療費
N0i: i疾病金庫の年金受給者数
BOi×NOi/Ni=(1−αi)B
i疾病金庫への調整交付金は次のように表すことができる。
Ki=αi×B×Ni−Γ×Mi×Ii
=−Ni×B×(1−αi)+Ni×B−Γ×Mi×Ii (2)
=−Ni×B×(1−αi)×Γ×(Y×Ni−Mi×Ii)
(2)式からすると、調整交付金はi疾病金庫の罹患率が平均とどれだけ異なるかという罹患率調整部分と、現実の基本賃金総額が被扶養者も加味して調整した基本賃金総額とどれだけ異なるのかという基本賃金調整部分の2つからなる。このことからすると、高齢化率が高いこと等によって、i疾病金庫の罹患率が平均罹患率よりも高い場合、調整交付金を受け取り、また被扶養者が多いかあるいは1人当たり基本賃金が低いことによって、i疾病金庫の現実の基本賃金総額が想定された基本賃金(Y×Ni)総額よりも少ない場合にも調整交付金を受け取る。