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これはまさに、標準的なサービスを各疾病金庫に保障するけれども、それ以上については格差が出ることは容認しましょうという効率と公正のトレード・オフにたいするひとつの答えである。そしてまた、被保険者は、1994年から自分が加入する保険者を選択することが可能となった。これはまた保険者間の競争を促進することになる。

 

3. 事後的な財政調整の実態

1978年から1994年までの年金受給者の医療費にかかる財政調整の要点は次のとおりである。

(1) 年金受給者の医療費にかんする公的疾病保険間の財政調整は農業者疾病金庫を除いて行われた。その理由は、農業者疾病保険が除かれたのは、高齢自営農の医療費については、農業保護対策の一環として連邦補助金が出ているためである。

(2) ドイツ統一後も東西の経済力の格差から、旧ドイツ(旧西ドイツ地域)と新ドイツ(旧東ドイツ地域)に分けて財政調整が行われた。

(3) 民間疾病保険間、あるいは民間疾病保険と公的疾病保険間は財政調整をしない。なぜならば、民間疾病保険は個々人のリスクに応じて保険料が設定されるからである。前述のように、若いときに民間の保険に加入して保険料を安くあげ、高齢になってから公的年金に加入する人を防ぐ意味で、年金受給者の公的疾病保険について強制加入、任意加入ともに条件を厳しくしている。というのは、公的疾病保険は、世代間の所得の移転という性格が濃くなり、高齢のフリーライダーを防ぐためである。

(4) 財政調整の対象は、年金受給者にかんする法定給付にかんする純支出であって、事務費は、財政調整の対象とはならない。その理由は、事務費にかんしては金庫によっては母体となる企業などから補助金を受け取っている場合があるからである。また、療養給付に起因する交通費、医師に必要と認められない在宅看護等は調整対象ではない。

(5) 年金受給者にかかる医療費の総額から、年金受給者からの保険料収入を差し引く。これが年金受給者を除く全被保険者の負担となる。この負担額を年金受給者を除く被保険者の基礎貸金総額で割れば、連帯保険料率が出る。各疾病金庫の連帯拠出金は、各疾病金庫の基礎賃金総額に連帯保険料率をかけたものである。各疾病金庫の連帯拠出金がその金庫の年金受給者の医療費に満たない場合には、調整基金から不足分を受け取り、各疾病金庫の連帯拠出金がその金庫の年金受給者の医療費を上回る場合には、調整基金に超過分を拠出する。調整基金の財源はその超過分と年金受給者の保険料である。なお、年金受給者からの保険料収入は、年金給付額に年金受給者を除く被保険者に適用される全疾病金庫平均保険料率をかけたもので、年金金庫が半額、負担する(図1を参照のこと)。

このようにみると、1978年から1994年の公的疾病保険と公的介護保険の違いは、前者に農業疾病金庫が含まれていること、前者は年齢にかかわらず全国一律の保険料率であるのに、後者は年金受給者と年金受給者以外の被保険者の保険料率が異なるという点があるものの、かかった経費全体を財政調整するという事後的な財政調整の本質は変わらない(疾病保険と公的介護保険との財政調整の違いは注6を参照のこと)。それでは、次にこの財政調整の実態をみよう。

 

 

 

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