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4. 財政調整の評価

分立する疾病金庫のリスクの格差を考慮せずに、かかった医療費だけについて負担を調整する1977年から1994年までの年金受給者医療養の財政調整の方法は、経営努力の誘因をもたないことは明らかである。これはむしろ、年金受給者の医療費を他の被保険者の医療費に比較して上昇させる誘因をもち、加えて横並びのために、疾病金庫の年金受給者以外の1人当たり医療費の格差を縮小させる。もし、自己努力があるところでは、保険者間の格差が広がると考えられるからである。

ここでは、1977年からの財政調整について、その実態をみよう。

第1に、年金受給者の医療費は、1978年の210億マルクから1994年の750億マルクまで17年間に3.6倍に伸びている。この間連帯保険料率も、1989年の第1次構造改革で若干低下したもののすぐに回復し、2%から3.5%程度へと上昇した。年金受給者医療費にしめる年金受給者の負担割合は、1978年の51%から1988年の41%と低下し、89年に48%まで上昇したもののまた1994年には、43%まで低下した。さまざまな改革にもかかわらず歯止めがきかなかったのである。

第2に、平均基礎賃金が高く、高齢化率の低い疾病金庫から、平均基礎賃金が低く、高齢化率の高い疾病金庫へ財政調整が行われている。表2で示される1993年の財政調整をみると、労働者補充金庫、同業疾病金庫、職員補充金庫から連邦鉱山労働者疾病金庫、地区疾病金庫へ財政調整が行われている。

第3に、年金受給者1人当たり医療費、年金受給者以外の1人当たり医療費の変動係数、および伸び率をみると次のことがいえる(図2と図3を参照のこと)。まず、1989年を除くと、年金受給者以外の被保険者1人当たり医療費の伸びは、1970年代後半から、年金受給者1人当たり医療費の伸びより低い。また、年金受給者1人当たり医療費の変動係数は、図3にみるとおり大きく低下した。これを年金受給者以外の被保険者1人当たり医療費の変動係数がほぼ変化していないことと比べると、意味するところは大きい。これはまさに事後的な財政調整が年金受給者の医療費について財政制約をはずした形になり、経営努力を阻害し、横並びで費用を膨張させていったことがよくわかる。

以上より、介護保険が1978年から1994年まで実施された年金受給者にかかる医療費と同じ財政調整の枠組みを採用する以上、介護保険もおそらく年金受給者の医療費と同じくコストが年々急上昇し、経営努力も阻害され1人当たり介護費の変動係数も小さくなると予測できる。

 

III リスク構造調整の意味するもの

ここでリスク構造調整が介護保険に適用された場合を考えてみたい。医療のリスクは、年齢や性等によって異なる。財政調整にさいして、それらのリスク要因を加味するのがリスク構造調整である。リスク構造調整とは、前述したように、わが国の地方交付税制度と考えかたが同じで(ただし不交付団体が出るのではなく、その場合にはマイナスの交付税を受け取ることになる)、各保険者に標準的な医療サービスと標準的な財政力を確保することを目的とする財政調整である。他の部分は自己努力による。

 

 

 

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