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保険料算定上限額は、公的疾病保険強制加入者所得上限額と同額である。原則として労使折半であるが、月収が610マルク以下の被用者の場合、全額が事業主負担となる。年金受給者の保険料は年金金庫が半額を支払う。以上は公的保険の強制加入者についてである。

疾病金庫と保険医協会の交渉によって、年間医療費が決定される。保険料率は、毎年の話し合いで決まるが、旧西ドイツ地域、旧東ドイツ地域で会計上独立していることを反映して、同じ種類の疾病金庫であっても、旧西ドイツ地域か東ドイツ地域かで異なる。1994年の平均保険料率は13.25%(旧東ドイツ地域は12.95%)であり、最も高いのが地区疾病金庫の保険料率で13.66%(旧東ドイツ地域は13.43%)、最も低いのが企業疾病金庫の保険料率で12. 07%(旧東ドイツ地域は11.69%)である。社会保険の独立性を維持するため、疾病保険にたいする国庫補助金は収入全体の数%に満たない。

 

2. ドイツ疾病保険の財政的課額とその対策および年金受給者医療政策の変遷

公的疾病保険の支出は、1970年の261億マルクから1994年の2364億マルクまで、25年間に9倍になった。公的疾病保険の支出の対GDP比は、1970年に4%であったのにたいし、1992年の対GDP比は7%に上昇した。なかでも年金受給者にかかる医療費の伸びは頭著である。おまけに高齢化率も、連邦鉱山労働者金庫、地区疾病金庫、農業者金庫で高い一方労働者補充金庫で低く、偏りがある(表1を参照のこと)。

年金受給者にかかる医療費のコストを抑制すること、その費用を疾病金庫間で公平に負担することの2点に着目すると、ドイツ疾病保険では、これまで3つの大きな構造改革がある。それらについて述べよう。

第1は、1977年の第1次疾病保険費用抑制法で、農業疾病金庫を除く年金受給者間の財政調整を導入した。それは、年金受給者医療費から年金保険の保険者と年金受給者本人の保険料を差し引いた、一般被保険者が負担する部分について、各疾病金庫の財政力に応じて負担をする方法であった。各疾病金庫は、各疾病金庫の年金受給者以外の被保険者の基本賃金総額に連帯保険料率(年金受給者医療費総額のうち年金受給者以外の被保険者が負担する部分総額の、全疾病金庫の賃金総額にたいする割合)をかけた額を連帯拠出金として負担する。

第2に、1989年1月の医療保障制度構造改革法によって、年金受給者医療費の財政調整において、財政調整の対象となる医療サービスが特定化された。事務費と埋葬料付加金は従来よりはずされていたが、新たに傷病手当、保養、リハビリテーション給付、健康増進給付、在宅看護を財政調整の対象外とした。これにより経営努力を促進しようとしたのである。

第3に、1995年からは「リスク構造調整」と呼ばれるものが年金受給者のための疾病保険の費用についても適用されることになった。この方法は、いわば基準財政需要額と基準財政収入額とを勘案して財政調整をする日本の地方交付税のような制度である。年金受給者にたいする標準的な疾病給付(高齢化率、罹患率)と、一般被保険者等の標準的な賃金、扶養率を想定してその部分までは財政調整をするが、あとは個々の疾病保険に任すというものである。

 

 

 

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