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参考論文3

 

公的介護保険と財政調整のありかた

 

I はじめに

本稿では、公的介護保険と財政調整のありかた考える。社会保険には規制が多い。個々のリスクに応じて保険料を徴収するわけではなく、ふつう加入者も選択できない。また、負担の公平の観点等から保険料率やサービスの価格も政策的に決められる。各保険の財政力に関係なく、国民に一定水準のサービスを確保することが必要とされるため、特定の保険者のサービス提供コストと収入が一致せず不均衡が生じる場合がある。この場合は、分立する制度間で財政調整が必要である。

介護や医療にかんしては、次の2つを満たす財政調整および財政構造が求められる。第1に、制度間格差の是正を図りながら、各保険者の経営努力を促進し、介護費や医療費の上昇を抑制する。

第2に、医療から福祉へのシフトを図るために、医療費の節約分が福祉にそのまま回る、つまりサイフがひとつであることが望ましい。

保険者間の財政調整の方法には、わが国の老人医療のように、かかった公共サービスのコストをまるまる財政調整するという事後的な財政調整と、わが国の地方交付税のように標準的なサービス水準と標準的な財政力までを財政調整するという事務的な財政調整の2つがある。財政調整のありかたは、当然、各団体の経営努力に影響を与える。

本稿の目的は、社会保険の代表的な財政調整の仕組みを明らかにし、その上にたってわが国の公的介護保険案の財政調整を評価することである。事前的な財政調整の例として、ドイツで年金受給者を対象として1978年から1994年まで実施された疾病保険の財政調整をとりあげる。これは1995年からドイツで実施された介護保険の財政調整の仕組みと原則的に同じである。そして、事前的な財政調整として、ドイツで1995年から実施された疾病保険のリスク構造調整をとりあげる。本稿の構成は次のとおりである。II節では、ドイツの年金受給者を対象とした疾病保険の事前的な財政調整について述べる。そこでは、経営努力にたいする影響も考察する。III節では、リスク構造調整の仕組みについて明らかにする。IV節では、わが国の介護保険制度案の財政調整について説明と評価を行う。V節をまとめとしよう。

 

II ドイツ疾病保険の財政調整

―1978年から1994年まで実施された年金受給者の医療費にかんする財政調整

はじめにドイツ疾病保険の特徴を述べよう。

 

1. ドイツ疾病保険の特徴

第1に、ドイツ国民は疾病保険に加入しなければならない。公的疾病保険と民間疾病保険が併存しており、コントラクト・アウトが行われている。公的疾病保険の強制加入者になるのは一定額以下の所得を稼ぐ者である。それ以上の所得を稼ぐ職員、自営業者、公務員等は公的保険の強制加入者ではない。彼らは、一定の条件を満たして公約保険に任意加入するか、民間の保険に加入する。1994年でみると、公的保険加入者は全体の88.5%、民間の保険加入者は9.1%、その他が2.3%、何も保険でカバーされていない人が0.1%である。

 

 

 

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