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リスク構造調整と事後的な財政調整との大きな差異は次の点である。リスク構造調整では、被扶養者を含めた全加入者にかかる標準的な医療サービスの総計を、疾病金庫の財政力の総計(全被保険者数×全被保険者一人当たりの基本貸金=基本賃金総額)で除した割合を調整保険料率とする。各疾病金庫の調整交付金は次のようにして決まる。性や年齢構造にしたがって必要と計算された医療給付費から、各疾病金庫の基本賃金総額(各疾病金庫の被保険者数×各疾病金庫の被保険者一人当たりの基本賃金)に調整保険料率を乗じたものを差し引いたものが、調整交付金となる。調整交付金がプラスのときは、調整交付金を受けることであり、調整交付金がマイナスのときには調整交付金を拠出する。

なお、事前的なリスク構造調整は、標準的な医療費までが財政調整の対象となるため、事後的な財政調整の短所をクリアできるが、標準的な医療費を、かかった医療費の平均とする方法では支出の伸びを抑制する効果は大きくはない。標準的な医療費は、かかった医療費とはほぼ独立に設定されるべきである。

 

・まとめ

医療保険の財源構成のあり方について次のようにまとめることにしよう。

第一に、わが国における保険者間の財政調整は主に国庫負担・補助が担っている。これはタックス・ベースもあいまいで、負担の公平さに関しては不透明なものである。今後は社会保険料の伸びを抑制する観点からも、目的税型の消費税を、現在行われている医療保険の国庫負担・補助と代替することが望ましい。中長期的には医療の標準的な保障にかかわる部分は消費税で財政調整し、標準以上の部分については各保険者の保険料をあてることを考えてよい。

第二に、ドイツの経験にみるように、ほとんどの支出を対象とする財政調整は、保険者の経営努力を阻害するので望ましくはない。現行の老人保健制度の老人医療に関する財政調整の方法を変える必要がある。

第三に、医療需要の価格弾力性は多くの研究によって推計されてきたが、一よりも大きいことは合意を得ている。事実、イタリアでもわが国でも、患者負担の引き上げは医療需要の抑制要因として働いている。患者負担がないところでは、医療の超過需要が起こり、診療を受けるために行列しなければならなくなる可能性が大きい。医療需要をコントロールするためには、低所得者に配慮しつつ、患者負担を2〜3割とする必要がある。

第四は、高齢者に特化した制度を分離する必要はなく、財政調整がうまく機能すれば、各保険者の高齢者の医療費について標準をもとに調整すればよい。

 

参考文献

(1) 石本忠義『疾病保険の現状と動向』社会保障研究所編、「西ドイツの社会保障」東京大学出版会、1989年

(2) 大田普『医療供給制度と医療保険制度―医療保険』社会保障研究所編、『フランスの社会保障』東京大学出版会、1989年

(3) 厚生省保険局企画課監修『欧米諸国の医療保障』法研、1996年第5版

(4) 厚生省健康政策局総務課編集『図説 日本の医療』ぎょうせい 各年版

(5) 木村陽子『公的介護保険と財政調整のありかた』「季刊社会保障研究」Vol.32 Winter 1996 No.3

(6) 薗部順一『ドイツ医療保険における新たな財政調整の導入』「健康保険」1993年11月、『ドイツ疾病金庫選択の自由とリスク構造調整』「健康保険」1995年11月

(7) 土田武史『ドイツ医療保険制度の再編成』「週間社会保障」No.1845 1995年7月3日

 

 

 

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