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社会保険料の増大は、これまでも国際競争力の観点から問題視されてきたが、経済のグローバル化と社会保険料水準自体の高まりで大きな問題になってきた。社会保険料の高まりを懸念する声は次のように要約できる。

第一に、社会保険料負担の増大は労働費用を高める。したがって、現在の高い労働費用が各国製品の価格競争力を弱め、主たる競争相手と比べて不利である。現在のように賃金を保険料算定の基礎とする制度では、資本コストに比して労働コストを上昇させる。この点から、企業は労働力よりも資本を選考し、資本代替を促進する。資本集約的企業に比して労働集約的企業が、現在、あまりにも過度の負担を強いられている。このことはまた、発展途上国との競争において不利になる。保険料の上限が未熟練労働者の雇用を阻害する。高い事業主負担は企業の利潤を圧迫し、投資意欲を阻害する。

第ニは、所得分配の公正に関するものであるが、その議論の骨子は次のようなものである。当初、国家公務員や鉱山労働者など一部の被用者をカバーするのみであった社会保険制度が、他部門の被用者、自営業者・非就労者にまで拡大してきた。例えば、フランスの公的年金制度では、拠出に基づかない国民連帯的な給付は、ながく社会保険制度の枠内で行われ、財源は賃金をベースとする社会保険料であった。

しかし、すべての被保険者の所得が、賃金所得を主な源泉にしているわけではない。よって、現在のように賃金をベースとした社会保険料のウエイトが大きいということは、賃金を主要な所得源泉とする者に負担を強いるというものである。加えて保険料算定基礎賃金には上限があるため逆進的であり、低所得者は不利である。

フランスの社会保険では、これまでもタバコや酒を特別税の課税対象としてきた。健康を阻害すると考えられるものに対して課税し、それを医療保険の財源にするということは根拠がある。フランスでは、医療保険に関して1984年以来社会保険料のもとになる賃金の上限が撤廃された。ドイツの社会保障財政に対する1%の付加価値税の投入にみられるように、公平や効率の観点から、より広いタックス・ベースに基づく財源が医療保険においても考えられると思われる。その点で、わが国の国庫負担・補助の医療保険への大量の投入は、そのタックス・ベースがあいまいなだけに、効率や公平の観点から評価しがたいものであり、また財政調整という点からも、経営努力を促進するシステムにはなっていないことが問題である。

 

4 財政調整

各保険者の財政力に関係なく、国民に一定水準のサービスを提供することが必要とされるところでは、特定の保険者のサービス提供コストと収入が一致せず、不均衡が生じる場合がある。この場合には、分立する制度間で財政調整が必要である。さもなくば、わが国のように、国庫負担・補助がその役割を担うことになる。

医療や介護に関しては、次の二つを満たす財政調整および財政構造が認められる。第一に、制度間格差の是正を図りながら、各保険者の経営努力を促進し、医療費の上昇を抑制する。第二に、医療から福祉へのシフトを図るために、医療費の節約分を福祉にそのまま投入することが望ましい。今回は、主に前者について述べる。

保険者間の財政調整の方法には、わが国の老人医療のように、かかった公共サービスのコストを(ほとんど)まるまる財政調整するという事後的な財政調整と、わが国の地方交付税のように、標準的なサービス水準と標準的な財政力までを財政調整するという事前的な財政調整の二つがある。当然、財政調整のあり方は各団体の経営努力に影響を与える。

 

 

 

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