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社会保険方式においては、社会保険から給付を得るためには一定の期間、社会保険料を支払わなければならない、あるいは支払っていたとみなされなければならない。税・移転方式とは、税金の支払いが給付支給要件とならない場合である。この定義に従えば、社会保険料が財源のうち1%で残り99%が税で賄われる医療であっても、給付要件に社会保険料拠出とあれば、それは社会保険で財源が賄われる医療ということになる。また、国庫負担・補助にも何をタックス・ベースにするのか、目的税か般税かという分類もできる。

通常、社会保険と国庫負担・補助のあり方を論じるときには、社会保険の基金の独立性と国の関与という視点を忘れてはならない。この議論は、ドイツやフランスなど社会保険基金の独立性の強いところではとくに重要である。

ドイツやフランスでは、社会保険基金の独立を尊重する。しかし、1970年代のドイツの「第次医療費用抑制法」で、協調会議の勧告によって、保険医の診療報酬の抑制や年金受給者の医療費に関する疾病金庫間での事後的な財政調整がはじまった。以降、基金の財政悪化や社会保険料の増大とともに、その与える経済効果が大きくなったため、基金は独立性を保ちつつも、マクロ経済的な視点からの国側の関与と無関係でいることが難しくなった。

フランスでは1930年代の社会保険成立の当初から、社会保障は当事者自身の仕事であって、当事者自身の真の努力に基づくものでなければならないと考えられた。国家の財政状況に影響される危険を回避するために独立会計とし、金庫を管理する理事も労使代表とした。国庫色負担は極力抑制された。国庫の導入は、農業・鉱山など特殊な分野に限られている。疾病金庫全体でも国庫負担の割合は数パーセントにすぎない。財政調整は国庫負担・補助に頼らず各制度間で行われており、被用者制度間、被用者と非被用者間での財政調整が行われている。ドイツの疾病金庫も自主管理が原則であり、基金は労使の代表によって運営され、国庫負担も障害者や老人、学生などに対象を限定している。国庫負担の割合は全歳入の数パーセントにすぎず、国の干渉をできるだけ少なくしている。

わが国の医療保険における国庫負担・補助は、主に二つの役割を担っている。そのひとつは、財政力の弱い保険者に対する補填である。退職者医療制度や老人保健制度を別にすると、各保険者間で財政調整するかわりにこの方法がとられてきた。わが国では、欧米ほどには保険者の独立性は強くはない。むしろ保険者としての地位を強めなければならない段階にある。保険でカバーする医療の範囲も保険者間での差はほとんどない。負担能力や疾病構造の差は、国庫負担・補助で調整するのがわが国の制度であって、「慢性的」赤字体質の保険者には国庫を投入するという具合である。あとひとつは、公費負担医療といわれるものである。原爆被爆者医療などのように国家補償的なもの、伝染病患者の隔離などに伴う医療を補償する社会防衛的なもの、低所得者などを対象とした所得保障的な公的負担医療である。1997年の一般会計予算では、生活保護の医療扶助費は6011億円で、医療費に対する国庫負担補助のおよそ1割にあたる。

 

3 社会保険料と代替的な税

雇用状況の改善に力点をおくEU諸国にとって、企業の負担軽減は重要課題である。事業主負担の保険料と代替するものとして、国庫負担や特別税があげられ、具体的な課税対象としては、付加価値や総所得、資産、タバコ、酒などがある。

 

 

 

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