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参考論文2

 

医療保険の合理的な負担と財政調整

 

・はじめに

医療技術の発達や高齢化によって、医療費は年々増加傾向にあり、わが国の国民医療費は1995年度で約27兆円、国民所得比で7.10%に達している。このようななか、「医療の質を確保しながら、いかにコストを管理するか」という課題がある。これには、医療給付や財源構成のあり方が大きく影響する。

本稿では、国庫負担・補助や財政調整も含めた医療保険の財源構成のあり方を考察する。医療保険の主な財源は、患者負担および社会保険料と税である。税や社会保険料については、賃金、消費、資産などタックス・ベースを何にするのか、また、税については目的税かあるいは一般税なのかについての選択肢がある。さらに、複数の制度間で財政調整が行われることもある。これら財源構成のあり方が、次の点で上記の課題に大きくかかわる。

第一に、通常の財は「価格」をシグナルとして効率的な資源配分が達成されるが、医療保険の「価格」は、本人が窓口で支払う患者負担である。患者負担のあり方は医療需要に影響する。

第二に、貸金報酬に基づいた医療保険の保険料は、労働費用の構成要素となる。グローバル経済のもとで、国際競争力の観点からその大きさは看過できないものとなっている。したがって、賃金にかかる社会保険料、とくに事業主負担引き上げはEU諸国においても抵抗が強い。医療のコストそのものを削減して社会保険料の引き上げを抑制する一方で、保険料以外の財源、例えば特別税の導入や国庫負担・補助を求めている。社会保険料、税の賦課は、加入者間の公平や資源配分の効率性にも影響する。今年4月、ドイツでは社会保障財源として、社会保険料を引き上げず、付加価値税を1%引き上げた。これは次の問題とも関連する。

第三に、わが国は社会保険方式を採用しているわりには、医療保険への国庫負担・補助の割合が大きい。保険者によって医療保険でカバーされる医療水準にほとんど差がないところでは、各制度の負担能力の違いがでる。わが国は、保険者間の財政調整ではなく、社会保険料の足りないところに国庫負担・補助を行ってきた。現在、医療費にかかわる国庫負担・補助は1997年度の一般会計予算で6.6兆円、うち医療費は3.9兆円、公的負担医療は2.6兆円である。文教および科学振興が6.3兆円、うち義務教育が2.9兆円であり、医療保険に対する国庫負担・補助だけで義務教育に対する国庫補助・負担よりも大きくなっている。しかし、医療保険における国庫負担のあり方について十分に議論されないまま、負担が上昇しているのが現状である。

第四に、社会保険における国庫負担は、単なる租税の帰着の問題だけではなく、社会保険基金の独立性の問題にもかかわる。

第五に、異なる制度間での財政調整のあり方は、各制度の「経営努力」と大きくかかわる。給付のどの程度までが財数調整の対象となるのかがポイントである。

本稿の構成は次のとおりである。第ニ節では、簡単に現行制度の財源構成を説明する。第三節では、社会保険と国庫負担、第四節では、社会保険料と代替的な税、第五節では、財源調整についてそれぞれ述べ、第六節では、患者負担のあり方も含めてまとめとする。

 

 

 

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