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自治体が課税権をもち国からの特定補助金はほとんどなしに行政サービスを実施している。住民からすれば高齢者介護は多くある行政サービスのひとつにすぎず、高齢者介護にかんするサービスの規模は自治体ごとに決定される。これは地方分権のひとつの雛型である。

わが国の高齢者介護はこれとはかなり異なった様相を呈している。まず、高齢者介護の財源はほかの行政サービスとは独立して、介護保険という全国的な財政調整制度のもとで賄われる。図表にあるごとく、介護保険対象のサービスに要した費用から1割の自己負担を除いた額の2分1が公費負担、残り2分の1が保険料である。公費のうち半分は国、残り4分の1ずつが都道府県と市町村が負担し、保険料の34%を65歳以上の第1号被保険者が負担し残り66%を40歳以上65歳未満の第2号被保険者が負担する。第1号被保険者と第2号被保険者の保険料の構成比は当該年齢階級の人口比を示している。一人あたり保険料額と同じと計算されているのである。介護保険は出来高におうじて財政調整をする事業促進的な仕組みをとっている。

地域住民が税負担を意識しつつ、住民選考に基づいて最適な行政サービスを決定することを地方分権、地方主権というのなら、介護保険はきわめて限定的なしくみである。つまり介護サービスにかんする住民選考を負担を意識しながら表明する仕組みは、第1号被保険者の保険料をとうしてである。というのは、第2号被保険者の保険料は居住する自治体に直接支払われるものではなく全国的な財政調整にまわる。

保険料をより多く支払ってよりよい介護サービスを受ける仕組みが介護保険にあるとしても、また、今後高齢化の進展とともに第1号被保険者が負担する保険料の割合が増加するのは明らかであるとしても、地方分権という観点からは介護保険では住民全体の介護にたいする意思を表わすものとしては限定的なのである。また介護内容も全国一律の保険であるため基準が設けられている。介護保険の対象外のサービスについて市町村が単独事業でどの程度行うのかについて余地が残っている程度である。

それにもかかわらず、高齢者介護、地域福祉は自治体とくに市町村の行政を大きくかえる可能性をもっている。それは、政府間の関係を変え、自治体の再編を促し、また住民参加を促進し、ニュー・パブリック・マネジメントと呼ばれる1970年代よりアングロサクソン国家で注目され出した行政手法を普及させるドライビング・フォースになる可能性がきわめて高いのである。

 

 

 

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