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このように所得税、支出税、純資産税それに所得税と統合課税される法人税から構成される国税体系が実現すれば、低税率で実質的累進性を確保することができる。消費税のような消費型付加価値税はむしろ地方税に配分すべきであろう。

仮に逆進的負担構造を備えた消費税つまり消費型付加価値税の引き上げるとすれば、少なくとも所得税と法人税の課税の強化が前提となる。スタインモ(S. Steinmo)が明らかにしているように、スウェーデンのように公共サービスの供給水準が高い国は、消費型付加価値税のウェイトが高く、租税負担構造が逆進的となっている。ところが、アメリカのように公共サービスの供給水準の低い国は、消費型付加価値税を導入していないため、租税負担は累進的となっている。しかし、第9図にみられるようにどの所得階層でもスウェーデンはアメリカよりも租税負担水準が高い。

つまり、スウェーデンのように強制的協力で生活保障を確立しようとする国では、低所得者の租税負担率が高くとも社会保障は可能となる。しかし、アメリカのように自助による生活保障を強制すれば、租税負担は累進的にせざるをえない。したがって、消費税のウェイトを高めるのであれば、生活保障の公共サービス水準を引き上げざるをえない。そうだとすれば日本では地方消費税のウェイトを高め、地域福祉というサービス給付を高めることを追求すべきだと考える。

 

VI. おわりに

「三つの福祉政府体系」を確立することによって、社会的セーフティ・ネットを張り替えるというここでの主張は、社会保障を社会の構成員の「自主管理」ともいうべき「自治」に委ねて再生を図ろうとすることを意味する。それを実現するために「政治空間」の決定権限を分散化することが、「三つの福祉政府体系」を確立することである。

国民国家レベルで統合運用される現金給付を基軸とした社会保障は、たとえそれが民主的選挙にもとづく代表によって決定されるにしても、素人には理解し難い複雑な仕組みとなり、官僚主義的弊害に侵されがちである。そのため拠出者にとっても受給者にとっても、負担と受給の関係が可視的でなくなり、社会保障を基礎づけている自発的協力が認識できなくなってしまう。

社会保障を基礎づけている自発的協力が確保できなくなると、市場経済のボーダレス化にともなう国際競争力の論理に、社会保障を支える「協力原理」は、いとも簡単に説得されてしまう。つまり、社会保障の負担は国際競争力の妨害物であるという競争原理に容易に折伏されることになる。

こうした競争原理にもとづく折伏は、社会保障の負担に対する二つの提案に結びつく。一つは、社会保障負担を輸出価格に転嫁させずに、国際競争力を高めようとする提案である。社会保障負担を消費税という「税」方式に改めようとする提案は、こうした提案路線上にあるということができる。

 

 

 

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