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とはいえ、包括的所得概念は所得税の課税ベースの理念型として、あくまで追求すべきである。ところが、日本では資産所得やキャピタル・ゲインを事実上、所得税の累進課税の対象外に設置してしまっている。

もっとも、包括的所得概念を実際には導入できないことからも推察できるように所得と課税ベースに採用することは、現実的でないため、消費を課税ベースとすべきだという消費課税論も根強い。つまり、所得税の代替税として、一年間の消費に課税する支出税の導入が主張される。

しかし、支出税礼讃論は所得税が消費と資産増加との合計を課税ベースとするのに対し、支出税が消費のみを課税ベースとするため、所得税よりも資産増加を消費ベースとすることにともなう困難から解放されていることを叫んでいるにすぎない。支出税も所得税と同様に帰属消費への課税などの消費を課税ベースとすることにともなう困難からは解放されていないのである。

もっとも、資産を食い潰してして消費をすれば、資産減価で消費をすることになるため、所得が生じないことになり、所得税の納税機能が発生しない。そうなるとカルドアが主張するように、資産を食い潰してマハラジャのような生活をする者が非課税となってしまう。

こうしたパラドックスは、経済力をフローでのみ把握しようとすることから生じている。実際には誰もが経済力とは何かを知っている。経済力とは「お金持ち」という概念に近い。年間1000万円の給与所得者を「お金持ち」とはいわないが、膨大な土地を所有し、地代で年間1000万円の所得を獲得している者は、「お金持ち」と呼ばれるに違いない。つまり、経済力とはフローとストックとの混合物なのである。

包括的所得概念もストックの経済力をどうにか所得というフローに写像しようとした工夫の産物といってよい。そうだとすればフローの課税とストックの課税を組み合わせて、経済力に応じた課税を実現するというシナリオが浮かび上がってくる。つまり、フローとしての所得、消費、それにストックとしての資産に、それぞれ累進税率で課税する国税体系をデザインすることができる。

こうした国税体系は所得税、支出税、純資産税で構成されることになる。このような国税体系が実現すればそれぞれの累進税率を著しく低めることができる。

こうした三つの人税体系が実現すれば、法人税は所得税の前取りと位置づけたほうがよい。つまり、法人税と所得税を完全統合課税にする。具体的に個人の段階で受取り配当だけでなく、内部段階も株主に分配されたものと見做して合算し、さらに法人段階で課税された法人税をも個人に帰属させた上で所得税を課税し、そこから法人段階で課税された法人税を控除する。

その上でカーター報告のように、法人税の税率と所得税の最高税率を一致させておく。そのため所得税の最高税率を適用されない個人にはすべて法人段階で納税した法人税が還付されることになる。もちろん、所得税の最高税率は著しく低くなっているため、法人税率も低めることができる。

 

 

 

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