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もっとも、被用者負担となれば、個人所得税が課税されることになる。しかし、日本のように被用者の社会保障負担が全額控除される場合には、負担区分の意義は小さくなる。

社会保障負担を消費型付加価値税に改めようという主張は、日本に固有な主張であり、消費型付加価値税の普及しているヨーロッパにも見出すことはできない。社会保障負担を給与所得と事業所得に対する分類所得税とし、独自の社会保障負担徴収機関に徴収を委ねたとしても、徴収効率が低下するというわけでもない。むしろ、年金を全て所得比例年金にし、ミニマム保障も所得比例的に保障すれば、社会保障負担を貢納すれば給付も増加するため、徴収効率も高まるはずである。

 

ミニマム保障を支える国税

中央政府は地方政府の現金給付と社会保障基金の現金給付に対するミニマム保障を任務とする。したがって、中央政府の課税する国税は、所得再分配機能に優れた累進的負担をもたらす租税負担構造を備えるべきである。そうだとすれば、所得税と法人税を基幹税とする租税体系を維持すべきだということになる。

もっとも、1980年代を契機とする経済のボーダレス化により、所得税や法人税の税率を高めることは困難になっている。したがって、所得税にしろ法人税にしろ、累進税率や税率を引き上げることを回避しつつ課税ベースの拡大によって実質的累進性の確保を図らなければならない。

日本では所得税にしろ法人税にしろ、非課税措置や特別拠出金に加え、租税特別措置が導入され、課税ベースが著しく狭くなっている。こうした改革的優遇措置を整理して、所得税と法人税の課税ベースの拡大を図らなければならないことは論を待たない。

しかし、単に政策的優遇措置を整理するだけでなく、所得税でいえば課税ベースとして、包括的所得概念に近づけ、経済力に応じた課税を実質的に実現しなければならない。包括的な所得概念は周期的な所得のみ所得と見なす源泉説とは相違して、所得税の課税ベースとしての所得を、一時的な所得を含む経済力の増加として定義する。具体的には第8図のように消費に期首と期末における資産の増加との合計となる。

ここで消費には絵画などの資産所有にもとづく帰属消費も含まれるし、資産評価には資産価値の増価としてのキャピタル・ゲインも、相続や贈与も含まれる。つまり、包括的所得概念では賃金、利子、地代など要素所得だけでなく、帰属所得、移転所得それにキャピタル・ゲインが包括されることになる。

もっとも、包括的所得概念そのものを所得税の課税ベースとすることは不可能である。というのも、例えば帰属所得に含まれる家事労働に課税することは現実的ではない。さらに、相続や贈与という移転所得には、家族内移転であるため、所得税とは別個に課税される相続税などの資産移転税で課税されるのが一般的だからである。

 

 

 

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