第6図のように個人住民税を10%の比例税にした結果をシミュレーションしてみると、国税の所得税から地方税の個人住民税に3兆円の税源移譲が実現する。27しかし、地方税を拡充することへの反対論は、地方税を拡充すれば、財政力の地域間格差が拡充するという点にある。ところが、この個人住民税の累進税率を比例税率化することによって税源移譲を拡充すれば、むしろ財政力格差は縮小する。というのも、この地方税の拡充は、地方税だけをみれば、低額所得者が増税となり、高額所得者が減税となるからである。
いうまでもなく課税力の貧しい地方とは、低額所得者が多く居住する地方であり、課税力の豊かな地方とは、高額所得者が多く居住する地方である。ところが、個人住民税の比例税率化で国税から地方税に税源移譲を実施すれば、低額所得者の多く居住する貧しい地方の租税収入がより多く増加し、高額所得者の多く居住する豊かな地方の税収がより少なく増加することになる。したがって、地方政府間の財政力格差をむしろ是正しつつ、自主財源である地方税の拡充が可能なのである。
協力原理にもとづく地方税体系
このように「協力原理」を地方税の課税の根拠とすれば、地方税体系の基幹税に比例的所得税を位置づけることが正当化される。しかし、協力原理にもとづく地方税体系としては、比例的所得税を基幹税化するだけでは不充分である。というのも、比例的所得税では所得を受け取った地域でしか課税することができない。つまり、その地方政府の有権者である住民、つまり地域社会にメンバーシップのある住民が、要素市場によって分配された受け取り所得にしか課税することができないからである。
しかし、地域社会への参加者は、メンバーシップのある住民に限定されているわけではない。メンバーシップがなく他の地域社会に居住していようとも、その地域社会で事業を営む人々、あるいは事業に働きに来る人々も地域社会の参加者と考えることができる。
地域社会では本来、地域社会に必要な街路などの生産関連の共同施設、あるいは地域社会の安全性や快適性を確保する生活関連の共同施設を共同作業で建設してきたし、準公共財も相互扶助によって供給してきた。ところが、他の地域社会に居住するけれども、その地域社会に事業経営や働きに来る人々も、こうした共同作業や相互扶助に参加したはずである。実際、地方政府の公共サービスもその地域社会に、事業経営や働きに来ている人々も利用する。それどころか、むしろ居住者よりも事業活動をしている人々や働いている人々のほうが、地域社会の公共サービスを多く利用している。
27ここでは1999年度の税制改正前の税率、つまり住民税の最高税率が15%として議論している。