「労務提供」代替としての地方税
税源移動性基準にしろ政府機能基準にしろ、これまでの税源配分論では、不動産税が地方税にふさわしい租税として地方税体系の核心に位置づけられてきた。その背後には地方政府の供給する公共サービスが、警察・消防・公共事業などの資産保護や資産価値を高める地方公共財の供給に中心がおかれていたことがある。
ところが、地方政府の供給する公共サービスは、個々人に割り当てることが不可能な地方公共財から、福祉・医療・教育などの個々人に割り当てることが可能な準私的財へと重点をシフトしようとしている。そのため不動産税では必要な税収確保もおぼつかないばかりか、課税の根拠をも見失ってしまうことになる。
教育・医療・福祉という準私的財が個々人に割り当て可能なのは、それが家族やコミュニティの共同作業や相互扶助という自発的協力によって供給されてきたからである。ところが、老人の養老にしろ、幼児の育児にしろ、家族機能やコミュニティ機能が縮小してきているために、地方政府がそうした自発的協力に代替するサービス給付を供給せざるをえなくなっている。
準私的財という公共サービスが、家族やコミュニティの自発的協力で実行されていたとすれば、地域社会の構成員が「労務提供」によって負担をすればよい。つまり、地域社会の構成員が一定期間、地域社会のために養老や育児などの準私的財を生産する労働に従事すればよい。
地域住民が自発的協力として「労務提供」を実施する代わりに、地方税を納税すれば、それを財源に地方政府が準私的財を供給することになる。26地域住民が一定期間、労働を地域社会のために提供すれば、それぞれの地域住民は一定期間の労働によって稼得できる所得を諦めざるをえない。地域住民が一定期間、労働を提供する代わりに、地方税を納税するのだとすれば、それぞれの地域住民が一定期間の労働によって稼得できる所得を地方税として納税すればよいことになる。
このように家族やコミュニティの共同作業や相互扶助によって供給されていたサービス、あるいは共同作業によって生活保障インフラの整備を、地方政府が代わって供給するとすれば、その財源は累進税率ではなく、比例税率で課税される比例所得税が望ましいことになる。地方政府の役割が、こうした家族やコミュニティの共同作業や相互扶助に代わるサービスや施設の供給になっていくとすれば、地方税の基幹税も地域住民が共同作業や相互扶助という自発的協力に代わって納税する比例所得税にする必要がある。
こうした協力原理にもとづく比例所得税を、地方税体系の基幹税に据えることは日本では容易である。というのも日本では既に個人住民税という累進税率で課税されている個人住民税を例えば、10%の比例税率にすればよい。このように個人住民税を比例税率にし、国税と地方税を通じての租税負担率を変化させないようにしても、国税から地方税への税源移譲は可能になる。
26この「労務提供」を「ワークフェア」と呼べば、こうした地方税負担原理をワークフェア原理ということができる。ワークフェア原理については、神野・金子編[1998]を参照されたい。