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そうなると貧者は、流出した富者の居住する地方へと流入する。こうして地方政府が所得再分配機能を担えば、富者に対する貧者の絶えざる追跡効果が生じてしまう。経済安定化機能についても、地方政府がボーダーを管理しない政府であるが故に、中央政府が担うものとされてきたのである。

こうした政府機能基準から導き出される税源配分論では、所得再分配機能や経済安定化に適した所得弾性値の高い累進的所得税や法人税を国税に配分し、税源移動性や偏在性の低い不動産税などを地方税として残すという主張となる。つまり、経済的能力に応じて課税される応能的租税は国税に、経済的能力に応ぜずに公共サービスの利益に応じて課税される応益的租税は、地方税にと主張されるようになる。

古くプロイセンのミーケル(J. v. Miquel)の改革に起因して定式化された「国税は能力原則、地方税は利益原則」という税源配分原則、あるいは「人税は国税、物税は地方税」という税源配分原則は、政府機能基準にもとづく税源配分原則といってよい。第二次大戦後に日本で行われたシャウプ勧告も、同様の税源配分原則にもとづいていると考えられる。

このように伝統的に主導されてきた税源配分原則にもとづくと、総合所得税、純資産税、相続税などという人税は国税に、収益税、個別財産税、分類所得税、土地所得税などという物税は地方税に配分すべきだということになる。人税は能力原則にもとづき、物税は利益原則にもとづいて、課税の公平が弁証されることから、能力原則に整合的な租税は国税に、利益原則に整合的な租税は地方税にという税源配分原則にも適合することになるからである。

もっとも、人税と物税という区分は、あくまでも直接税に対する区分である。間接税は税源移動性基準では、国税に配分されていた。しかし、税源移動性基準で中間レベルの地方政府に配分されることになっていた人税が国税に適するとされるようになると、間接税については、製造段階に近い間接税を国税に、消費段階に近い間接税を地方税に、という原則が主張されるようになる。もっとも、製造から小売りまで多段階で課税される間接税は複雑である。取引高税は国税に、日本の「消費税」のような付加価値税は、実情に即応して国税と地方税に配分するという主張が一般的であったように思われる。

しかし、前述したように政府機能基準も税源移動性基準も、地方政府が境界を管理しないオープン・システムの政府であることを前提にしている。ところが、世紀転換期を迎えるとともに、市場経済がボーダレス化し、中央政府も境界を管理できなくなってしまう。そのため新たな税源配分論の構築が問われることになる。25

 

25地方税と国税の税源配分については、神野・堀場[1998]を参照されたい。

 

 

 

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