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しかも、重要なことはサービスの供給を民間企業に委ねることには、そもそも限界があることも忘れてはならない。「共同体の失敗」は市場に委ねられない。もっとも、刑務所を設置して秩序を維持するサービスの供給は、民営化できないにしても、刑務所というサービスの生産については民間委託は可能である。つまり、サービスの生産は民間委託が可能でも、その供給を市場化することには限界がある。そうだとすれば、地方政府の膨張する財政需要を支える地方税改革のシナリオを描く必要がある。

 

税源移動性基準と政府機能基準

地方税を拡充しようとするシナリオは、いつも悲劇のシナリオで彩られがちである。というのも、地方政府がボーダー(国境)を管理しない入退の自由なオープン・システムの政府だからである。

伝統的な税源配分論で、税源の移動性が基準とされるのも、地方政府が境界を管理しないオープン・システムの政府だからである。つまり、境界を管理しないオープン・システムの地方政府には、税源の移動性の低い租税を配分すべきであると考えられたからである。これに対して境界を管理する中央政府には、税源の移動性の高い租税を配分することができることになる。

こうした税源移動性を基準にすると、不動産のような移動性の低い税源に課税する不動産税が地方税に適することになる。これに対して国税としては、モノのような移動性の高い税源へ課税する間接税が望ましいことになる。さらにヒトという移動性が中間的な税源に課税する所得税のような人税は、中間レベルの地方政府に配分すべきだという税源配分論が主張されることになる。

このような税源移動性を基準とする税源配分論では、租税とは公共サービスの利益に対応して負担されるべきだという利益原則を前提にしていたといってよい。ところが、租税原則として利益原則と入れ替わって、租税とは経済的能力に対応して負担されるべきだという能力原則が支配的になると、政府機能基準の税源配分論が登場してくる。

もっとも、この政府機能基準の税源配分論も、中央政府がボーダーを管理する政府であり、地方政府がボーダーを管理しない政府であることを前提にしている。というのも、所得再分配機能と経済安定化機能は、ボーダーを管理する中央政府が、もっぱら担う政府機能として位置づけられているからである。住民の入退出が自由なオープン・システムの地方政府が所得再分配機能を担えば、貧者が所得再分配の手厚い地方に流入する。そうした地方政府は富者への課税を強化せざるをえないから、富者は流出してしまう。

 

 

 

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