V. 「三つの福祉政府体系」の公的負担
ユニバーサル・サービスとユニバーサル・デザイン
以上のように「三つの福祉政府」体系を確立すると、地方政府の財政需要は激増する。23第一に、教育・医療・福祉という準私的財の現物給付が急増するからである。しかも、こうした現物給付は措置主義などによる選別主義的サービスではなく、ミーンズ・テストなどを伴わないユニバーサル・サービスとして供給されなければならない。
第二に、ユニーバーサル・デザインによる生活保障インフラの整備を実施しなければならない。地方政府の任務は、生活点における共同体の自発的協力を吸収している。こうした共同体の自発的協力には相互扶助によるサービス供給とともに、共同作業による生活保障インフラの整備がある。共同作業による生活保障インフラとは、共同体で営まれる生活の安全性と快適性を確保する共同施設と、共同体の構成員間のコミュニケーション手段ということができる。
安全性や快適性を確保する共同施設としては、汚水処理、塵芥・屑処理などがあり、コミュニケーション手段としては交通や通信などを挙げることができる。現在では普遍性を確保する共同施設も高次化し、地域社会の固有の文化に根差した文化施設、芸術施設、学術施設、さらにはスポーツやレジャー施設が加わってくる。つまり、図書館、劇場、コンサートホール、オペラハウス、美術館、博物館、大学や研究所などの基礎的研究機関、体育館などの施設の体系的整備も要請されるようになる。
しかし、より重要なことは、共同施設やコミュニケーション手段を、ユニバーサル・デザインにもとづく安全性と快適性の確保が必要となることである。24ユニバーサル・デザインにもとづく安全性は、障害者や高齢者などに限定してバリアをフリーにすることにとどまらない。コミュニケーション手段もあらゆる人間にとってアクセス可能にデザインすることを意味する。例えば、階段というバリアに対して、障害者用の昇降装置を設置して、障害者に限定してバリアをフリーにするのではなく、階段に加えエレベーター、エスカレーターの三点をセットで設置し、ユニバーサルにデザインすることである。そうすれば障害者に限らず、乳母車を引いた母親もアクセスすることが可能となる。
このように地方政府は、ユーバサル・サービスの供給に加え、ユニバーサル・デザインにもとづく生活保障インフラの整備に迫られて財政需要は増加する。そうした財政需要は、地方税という自主財源によって支えられなければならない。
もっとも、地方政府の任務は生活点における自発的協力の限界を克服することから生ずる。そのため本来の自発的協力、つまり家族やコミュニーティというインフォーマル・セクターや、NPDやNGOというボランタリー・セクターを活用することによって、財政需要を抑制することができる。しかし、こうした自発的協力に限界が生じれば、それを強制的協力によって克服する責任が、地方政府にあることを忘れてはならない。
23社会の高齢化にともなう公的負担については、宮島[1994]を参照されたい。
24ユニバーサル・デザインによる街づくりについては、ニッセイ基礎研究所の白石真澄主任研究員の教えに負っている。