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補助金は中央政府の決定した政策を、地方政府に執行させるために交付されるからである。したがって、補助金によって地方政府は、それぞれの課税力にもとづく支出能力を、そのまま上にシフトさせるだけである。

これに対して日本でいえば、交付金のような財政調整資金は、斜線部分のようにミニマム保障の財源として交付される。中央政府の政策介入のために交付される補助金は、地方税に置き換えることができる。地方政府が地域社会のニーズに対応したサービス給付を自己決定するためには、補助金は地方税に置換されなければならない。つまり、中央政府の地方政府への財源移転は、ミニマム保障という中央責任を果たすための財政調整目的に限定されなければならない。

中央政府と政府としての社会保障基金の関係も、中央政府と地方政府と同様に考えることができる。地方政府の現物給付に対して中央政府がミニマム保障をしたように、社会保障基金の現金給付に対して中央政府には、ミニマム保障責任がある。つまり、「政府」としての社会保障基金が生産点での自発的協力を基礎に賃金代替の現金給付を支給するのに対して、中央政府にミニマム保障の現金給付を保護する責任がある。

年金でいえば、「政府」としての社会保障基金の支給する年金は、前述のような賃金代替としての所得比例でよいことになる。しかし、中央政府は無所得者でも社会の構成員である限り、保障されるミニマム保障をしなければならない。つまり、第5図でいえば、中央政府は斜線部分を国税によって支給することになる。

この斜線部分は、第4図における地方政府に対して支給する斜線部分と同様のこととなる。しかし、ここで注意を喚起しておきたい点は、ミニマム保障の年金水準も緩やかな所得比例となっていることである。自発的協力を基礎にする以上、社会保障負担を納める努力をしている者との公平性を図る必要があるからである。こうした考えからすれば、第5図の地方政府に対するミニマム保障でも、地方税率を高くして課税努力をしている地方政府にミニマム保障が多く配分されるように、交付税も緩やかな税収比例にすべきだということになる。

こうして中央政府は、地方政府と社会保障基金に対するミニマム保障責任を負う「政府」となる。そうなるとボーダレス化によって困難化している所得再分配機能から中央政府を大幅に解放しつつ、社会の構成員の生活保障という社会的セーフティ・ネットを張ることが可能となる。もっとも、中央政府はこうしたミニマム保障に加えて、中央政府の所得再分配機能を確保すべく、中央政府間の協力を実現するという責任も果さなければならないことになる。とはいえ、所得再分配機能から中央政府を大幅に解放しつつ、「三つの福祉政府体系」を確立することこそ、ポスト・「福祉国家システム」の対応した社会的セーフティ・ネットの張り替えということができる。

 

 

 

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