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しかし、地方政府には財政力格差が存在する。地方政府が地域社会の構成員の「自治」によって、強制的協力にもとづく生活保障の現物給付を供給すれば、地方政府の財政力格差を反映して、生活保障の現物給付にも格差が生じる。その格差が地域社会に固有なニーズの相違を反映する限りにおいて、社会統合に亀裂が走るわけではない。ところが、財政力の弱い地方政府が現物給付によって地域社会の構成員の生活保障を果たしえなくなれば、社会統合も不可能となる。

そのため中央政府には、財政力の弱い地方政府でも現物給付の必要行政水準を保障するというミニマム保障の「中央責任(central responsibility)」が生ずることになる。この中央政府の「中央責任」は、地方政府間の自発的協力の限界を克服した強制的協力として生じる。すなわち、地方政府の利他的行為の相互遂行による助け合い励まし合うという自発的協力を基礎にした中央政府の責任となる。それは船足の速い船が船足の遅い船をいたわり、船足の遅い船が船足の速い船に迷惑をかけぬように必死に追走し、「努力」して敵の攻撃から身を守る「護送船団方式」にもとづいているといってもよい。

こうした中央政府のミニマム保障責任を果たす仕組みが、中央政府が地方政府に財源を移転する調整制度である。財政調整制度は中央政府が、地方政府の財政力格差を是正しつつ、必要行政水準を確保する財源を地方政府に保障する仕組みということができる。日本でいえば、交付税ということになる。

しかし、財政調整による中央政府からの地方政府への財源の移転は、あくまでも地方政府間の自発的協力を基礎としなければならない。財政調整が地方政府間の自発的協力を基礎とする限り、移転される財源に中央政府は使途限定し、地方政府の自己決定権を奪ってはならない。つまり、財政調整として移転される財源は、補助金のような特定財源ではなく、交付税のような一般財源で交付されなければならない。

財政調整が地方政府の自発的協力を基礎とすることから導出されるもう一つの財政調整の性格は、あくまでもそれがミニマム保障にとどまるということである。財政調整が地方政府間の自発的協力を基礎とすれば、財政調整による財源の移転は、地方政府が他の地域社会から財源を調達することを意味している。地方政府が他の地域社会からの財源調達を容認されるのは、あくまでもミニマム水準を確保する限りにおいてである。こうした財政調整の仕組みを、概念図で示せば、第4図のようになる。22横軸に住民一人当たりの地方税収入に応じた地方政府を取れば、補助金は課税力の高い豊かな地域社会だからといって多く交付されるわけではない。

 

22第4図はあくまでも概念図であるが、横軸の一人当りの税収で地方税の課税自主権を認めると、交付税によるミニマム保障を右上りにすることが考えられる。つまり、後に述べるように税率を引き上げるなどの課税努力をした地方政府に、交付税をより多く配分する方式も考えられる。

 

 

 

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