もっとも、日本の現状から出発すれば、ただちにサービス給付は地方政府に、賃金代替の休業補償は社会保障基金にという政府間分業を実現するわけにはいかない。
しかし、こうした方向を目指しつつ、現行の医療保険についても、フランスのように医師と患者の代表からなる社会保障基金「政府」の「自治」によって運営されるべきである。このような社会保障基金の「自治」にもとづいて、野放しに近い状態にある医療サービスにも「自治」による規制が与えられなければならない。
「介護」保険についても同様である。「介護」保険として社会保障基金が保障する給付は、両親あるいは祖父母などのための「介護」で休業した時の賃金代替ということになる。日本でも現在、雇用保障で介護休業保障が実施されているが、自発的協力に基礎づけられていないため、「すずめの涙」ほどの給付にすぎず、賃金代替の給付水準を引き上げるとともに、「介護」サービスは地方政府が供給しなければならない。サービス給付の供給は生活点の自発的協力に基礎づけられた地方政府の任務であり、介護サービスも当然、地方税によって賄われなければならないのである。
「三つの福祉政府体系」の確立
生産点における「協力の政府」としての社会保障基金による現金給付と、生活点における「協力の政府」としての地方政府のサービス給付は、有機的に関連づけられて、社会システムで営まれる人間の生活を保障しなければならない。高齢者の生活は、社会保障基金という政府の支給する年金という現金給付だけで保障されるわけではない。地方政府の供給するサービス給付とセットで保障される必要がある。
地方政府の整備しなければならないサービス給付には、家族が担ってきた性格の強いサービス給付と、コミュニティが担ってきた性格の強いサービス給付がある。そうした性格の相違に従って、立地点サービスと配達サービスとに分類することができる。立地点サービスには居住と医療介護ケアを統合したケア付き住宅、老人ホーム、痴呆性老人対象のグループホーム、ナーシングホームなどの高齢者用住宅施設がある。これに対して配達サービスにはホームヘルプ、緊急アラームシステムなどがある。さらに両者の性格を兼ね備えた老人専門病院、地域医療センター、デイケアセンターなどの医療サービスが存在する。
地方政府の現物給付が充実しなければ、年金給付が高い水準であったとしても、高齢者の生活を保障しえない。両者は高齢者の生活を保障の車の両輪となる。もっとも、例えばケア付き住宅に居住している高齢者には、それに相応して年金給付は減額するという関連づけも必要となる。こうした関連づけは、地方政府が現物給付を支給する際に、高齢者の年金給付を考慮した料金設定によっても可能となる。
しかし、地方政府が地域社会の構成員の生活保障のために、現物給付を支給するには、それを可能にする財源が保障される必要がある。もちろん、それには地域住民が自らの地域社会に必要な現物給付を、自己決定できる「自治」が前提となる。こうした「自治」が実現していないと、日本のように産業政策や景気政策という中央政府の任務に地方財政が動員され、生活点のニーズを充足する公共サービスが過小供給となってしまうからである。