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しかも、生産点における自発的協力としての共済活動とは、正当な理由で賃金を喪失した時に、喪失した賃金を構成員が相互に保障しあうことを意味していることに注意する必要がある。そのため社会保険も疾病、老齢、失業などの正当な理由で賃金を喪失した際の賃金代替としての給付という性格を備えることになる。

「現代システム」は生活保障を、このように賃金代替としての貨幣給付によって実現しようとする。つまり、賃金代替としての貨幣給付さえ政治システムが保障すれば、人間の生活は社会システムによって保障されると想定しているのである。

そのため「現代システム」では、生産点における自発的協力を吸収した社会保障基金によって生活を保障しようとする。もっとも、「現代システム」では社会保険とともに公的扶助が社会システムをサポートする社会のセーフティ・ネットの両輪となる。

確かに、公的扶助は1601年のエリザベス救貧法にまで遡る生活点における救貧活動に前身がある。つまり、社会保険が生産点における自発的協力を吸収した貨幣給付とすれば、公的扶助は生活点における自発的協力を吸収した貨幣給付ということができる。しかし、そうだとしてもそれは、賃金代替の貨幣給付と位置づけることが可能である。つまり、「現代システム」では市場経済が分配する賃金に代替する貨幣を、市場経済の外側で政治システムが給付すれば、生活保障が実現できると想定していたのである。

こうした現金給付による生活保障を可能にしたのは、二つの総力戦という歴史的経験を通じて成立した所得税と法人税を基幹税とした租税制度である。つまり、戦費調達のために形成されたこうした租税制度は、多収性ある租税制度を国税で実現することを目的としていたために国税に税源を集中させていた。そのため公的扶助と社会保険を中心とする現金給付は、実際には中央政府に集中する多額な税収に支えられていたのである。

 

IV. 「三つの福祉政府体系」による社会的セーフティ・ネットの張り替え

地方政府による現物給付へのシフト

1980年代以降、所得税と法人税を基幹税とする福祉国家型租税体系が激しく動揺すると現金給付による社会的セーフティ・ネットも、綻びを露呈していくことになる。この世紀転換期に生じている大不況は、こうした現金給付による社会的セーフティ・ネットの補修が実施されていないからだといってよい。社会的セーフティ・ネットの補修により、社会システムにおける生活保障システムが実現しなければ、市場経済という競争の領域も活性化することはないのである。

社会的セーフティ・ネットの張り替えの基軸は二つある。一つは社会的セーフティ・ネットの軸心を現金給付から現物給付(サービス給付)にシフトさせることにある。

 

 

 

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