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しかし、「無産国家」となった政治システムは、強制力を確保し、社会統合を目指す政治活動に必要な財・サービスを調達できなくなってしまう。そこで政治システムは、生産要素の所有者である国民の同意を得て、経済システムが生産する所得の一部から強制的に貨幣を徴収して政治活動を実施するようになる。このように政治システムが経済システムから分離すると、「租税国家」が誕生し、財政が成立することになる。11

こうした近代社会が成立すると、共同体という社会システムから政治システム、さらに経済システムという三つのサブ・システムが分離してくる。財政は分離した三つのサブ・システムを、一つの社会として政治システムが統合していくための媒介環となる。

第2図に図示したように、政治システムは財政というチャネルを通じて、経済システムから調達した貨幣で、社会システムに対して共同体的諸関係を保護する公共サービスを供給し、社会システムから「忠誠」を獲得する。社会システムから「忠誠」を獲得し、社会秩序を維持することによって、経済システムの私的所有権を保護し、その代価として租税という貨幣を調達する。

もっとも、近代市場社会では政治システムは、経済システムを分離させることによって、社会の構成員の生存保障という責任から解放されている。近代市場社会では政治システムが防衛、警察的保護、紛争の裁定や調停などの純粋な公共財を供給することによって、社会システムから忠誠を調達できると想定している。

しかし、政治システムが社会システムから忠誠を調達し、社会秩序を維持するには、正当化された暴力の独占だけでは十分ではない。というのは、前述のように物理的暴力の発動が正当化されていたとしても、その行使はかえって社会秩序の混乱を招きかねないからである。そうなると政治システムは、社会の構成員から忠誠を調達するために、社会の構成員の包括的生活を保障せざるをえないのである。

 

生活点における自発的協力と地方政府

近代市場社会が成立してから、19世紀後半にいたるまでの社会全体の仕組みを「近代システム」と呼んでおけば、「近代システム」では、正当化された暴力を確保する純粋な公共財の供給に、政治システムの機能が限定されていた。それは19世紀における先進国イギリスをみても、家族やコミュニティという社会システムの機能のほうが、市場経済の機能よりもはるかに強力に作動していたからである。

もちろん、経済システムによって社会システムで営まれる人間の生活が困難になる貧困が生じると認識されていなかったわけではない。しかし、そうした問題は私的行為とで営まれる個人的問題であって、私有財産と個人を結びつけている家族やコミュニティという社会システムが処理すべきだと見做されていたのである。

 

11Schumpeter[1918], 参照。

 

 

 

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