福祉国家型租税体系の動揺とともに、綻び始めた社会的セーフティ・ネットを張り替えるには、こうしたメゾ・レベルでの「三つの政府体系」と結びつける必要がある。つまり、社会保障改革のシナリオは、「三つの福祉政府体系」の確立という「システム改革」と結びつけて検討されなければならないのである。9
III. 「三つの政府体系」へのアプローチ
「共同体の失敗」
「三つの福祉政府体系」は、政府が「共同体の失敗」から生まれたことを示唆している。社会全体を構成する三つのサブ・システムのうち、最も古い人間と人間との関係つまり社会的組織は、共同体という社会システムに求められる。というよりも、群居性を備えた「種」として人間は生来、共同体という社会システムの自発的協力の組織に埋め込まれて生活している。つまり、人間は過酷な自然の中で生存していくために、共同体という自発的協力の組織を形成して生命を維持したということができる。10
ところが、人間の欲求には、生存を維持するために充足しなければならないニーズ(needs)と、ニーズを越えて膨張していく欲望(wants)がある。欲望を充足しようとすれば、生存を維持するのに最低限必要な財・サービスを上回る余剰を作り出さなければならない。しかし、共同体の自発的協力では生存を維持するニーズは充足されるけれども、欲望を充足する余剰を作り出していくことは困難となる。
共同体の自発的協力は、共同体の構成員間に「顔」の見える直接的人間関係と、直接的人間関係が育む信念と価値の共有、それに信念と価値の共有から生まれる「愛」という相互理解を前提としている。こうした条件を前提に、共同体の共同作業や相互扶助という自発的協力が展開していく。
しかし、欲望を充足するため余剰を増大させようとすれば、自発的協力では限界が生ずる。顔見知りの直接的人間関係にもとづく共同作業で、生産力を増加させるため灌漑施設を建設しようとしても限界がある。古代国家の生誕をみれば明らかなように、「政府」はこうした自発的協力の限界を強制力によって克服しようとする試みから生ずる。つまり、自発的協力の限界を強制的協力によって打破しようとしたのである。
このように強制力を備えた「政府」は、共同体の限界を克服しようとする「共同体の失敗」から誕生している。エジブトのピラミッド、中国の万里の長城、ローマの道路網など、いずれも「強制的協力」にもとづいて増加した余剰の壮大さを象徴している。公共経済学が実しやかに説明するように、「市場の失敗」から発生したわけではない。
9「三つの政府体系」については、神野[1999]を参照されたい。
10共同体の考察については、中西[1998]を参照されたい。