社会全体の仕組みの媒介環として財政を位置づける財政社会学的アプローチからすれば、社会全体としての「システム」は、社会システム、政治システム、経済システムという三つのサブ・システムから構成されると考えられる。この三つのサブ・システムは本来、一つに統合されていた。ところが、近代市場社会になると、本来一つに統合されていた三つのサブ・システムが分離するため、「財政」が成立し、三つのサブ・システムを統合していくことになる。8
ここで社会システムとは家族やコミュニティという「共同体(Gemeinschaft)」を意味している。つまり、人間と人間との「愛」にもとづく自発的協力による結びつきと考えてよい。もちろん、政治システムとは政府を意味する。つまり、支配(domination)という強制力にもとづく、人間と人間との関係と考えることができる。これに対して経済システムとは、市場経済を意味する。つまり、自然に働きかけ、人間にとっての有用物を獲得するために取り結んでいる人間と人間との契約関係ということができる。
政治システムはこうした三つのサブ・システムを財政を媒介にして統合していく。つまり、政治システムは社会秩序を維持する代価として経済システムから租税を調達し、公共サービスを社会システムに供給して忠誠を調達することによって社会統合を図っていく。
とはいえ、政治システムが社会システムから「忠誠」を調達するには、正当化を独占している暴力の行使という強制力にのみ依存するわけにはいかない。それはかえって社会秩序を破壊してしまう結果を招くからである。
封建領主がひとたび飢饉に陥れば、米蔵を領民に開いたように、社会システムで営まれている社会の構成員の生活が危機に陥れば、政治システムはそれを保障する必要がある。つまり、政治システムは社会システムで営まれている人間の生活を保障するという社会的セーフティ・ネットを張ることによって、社会システムから「忠誠」を調達することになる。
もっとも、共同体という社会システムでは、共同作業や相互扶助という自発的協力によって、共同体の構成員の生活は保障されている。しかし、そうした自発的協力が機能不全に陥れば、政治システムは強制的協力によって代替せざるをえない。
こうした自発的協力の代替機能を果すためには、政治システムはメゾ・レベルでは三つの財政主体から構成されることになる。それは生活する「場」である生活「点」での自発的協力を吸収した地方政府、生産する「場」である生産「点」での自発的協力を吸収した社会保障基金、そして中央政府である。
8財政と三つのサブ・システムとの関連については、神野[1998]を参照されたい。