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ブレトン・ウッズ体制が崩れ、資本統制が解除されると、国際的資本移動性が急速に高まる。スタインモは1978年に2400万回であった銀行間の国際資本移動が、1985年には6億8000万回にも上ったということ、それが何と2800%の成長率にあたるという驚嘆すべき事実を明らかにしている。6

このように資本がボーダー(国境)を越え、自由に動き回るようになると、法人税や所得税で資本所得に対する課税を強化すれば、資本は海外へとフライとする。そのため1980年代世界同時進行的に始まる「税制改革の時代」には、租税負担率を引き下げるという見誤りようのない傾向が出現する。それも現代租税制度の基幹税である所得税と法人税という資本所得に重課税する租税の税率の引下げに焦点を絞った税制改革が進行していくのである。

このように「福祉国家」システムで市場経済の弱者や敗者を救済していた社会保障制度、つまり社会的セーフティ・ネットを支えていた法人税や所得税を基幹税とする租税制度が動揺してくると、「福祉国家」システムの社会的セーフティ・ネットも綻びる。こうして「福祉国家型」租税体系の支えた租税制度の動揺とともに、現金給付の削減が矢継ぎ早に打ち出される。日本でも1980年代以降、現金給付を抑制的に見直す改革が実施されていったのである。

 

メゾレべルでの政府再編による保障の体系化

社会保障の改革では社会的セーフティ・ネットの破綻が「財政」を媒介にしていることを認識しなければならない。つまり、社会的セーフティ・ネットの破綻は、「財政」を媒介にして社会全体の仕組みの構造的変化と結びついている。

そうだとすれば社会保障の改革は、医療、年金、介護などという社会保障の個別分野ごとに、相互に何の脈絡もなく、パッチワーク的に検討したところで意味がない。社会全体の仕組みを「システム」と呼んでおけば、社会全体の仕組みを改革する「システム改革」と結びつけて、統一的なビジョンのもとに、社会的セーフティ・ネットの未来設計をする必要がある。

しかも、こうした社会的セーフティ・ネットの未来設計は、「財政」に焦点を絞ることが重要である。社会的セーフティ・ネットの破綻も「財政」が媒介したように、社会的セーフティ・ネットの張り替えも「財政」が媒介するはずである。本書で社会保障改革の焦点を財政面に絞ろうとしているのも、社会保障制度と社会全体の仕組みとの関連は、「財政」を媒介にして初めて可能になると考えているからである。それは歴史学派の伝統を継承する財政社会学の立場に立てば、7眼前の問題に目を奪われた早まった改革プランではなく、社会全体の仕組みとの関連で、社会保障や社会的セーフティ・ネットの改革を実施するのに、未来ビジョンを描くには、「財政」を媒介にして変動していく社会全体の仕組みを把握する必要があるからである。

 

6Steinmo[1993], P174参照。

7DeWit[1999], 参照。

 

 

 

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