第III部 海上安全の新しい動き
海上安全について、"安全のための過大な投資、効果の無い設備等の搭載、これが海運界の競争力低下をもたらしているかも知れない"との反省から、FSA(Fomal Safety Assessment)の考え方が国際的に起こり、その手法として確率論的安全評価がとられている。一方、2002年からSMS(Safety Management System)が500G/T以上の全船舶に適用されることになった。これ等をめぐる海上安全の新しい動きについて概説する。
1. FSA(Formal Safety Assessment);
1.1. FSA以前の海上安全に関する論争;
海上の安全性確保のための努力は国際条約、IMO、船級協会、各国政府等の懸命の努力がなされていることはよく知られている。これ等の活動とは全く別とはいえないが、1988年約1年間、海上の安全と保険の問題が主題で多くの議論があった。当時の業界新聞で筆者のメモに残っているものだけでも
・"Insurance moves to push ship safety"; (?)
・"Joint Hull Committee recomendations"; Lloyds List Aug.26.1988
・"Disturbing casualty lists of growth flags"; Lloyds List Sept.21.1988
・"Ship Safety crackdown welcomed"; Lloyds List Sept.23.1988
・"London insurances face Greek boycott"; Lloyds List Oct.17.1988
・"Present hull waranties suffice Greek owners"; Lloyds List Nov.25.1988
と言った具合である。しかしながら、これ等の議論は安全性の本質を議論したものではなく、些か立場の異なる業界(運航業界と保険業界)の利益を優先したものに感じられた。
日本国内でも"タンカーの解体船齢の延長について-海運と造船にとっての問題と対応-"; 海産研所報NO.277、長塚誠治等の報告もなされたが、1990年7月25日、日本造船工業会稲葉会長の"秩序ある計画的なタンカーの建造についてのお願い"が発表された。この発表は造船業界の実情を知って貰い、混乱のない発注をして貰い、海運、造船両業界の利益を保護しようとする主旨のものであり、従来の業界姿勢と異なり、積極的なものとして評価された。このように、安全性を巡る海運、保険業界の議論が意外な方面にまで発展した。
今日議論されているFSAの底流は10年以上前から種々の形で論争されていたことを前提としてFSA実現のための方法論を紹介しておく。[船研講演会の前刷り添付]
添付資料で分かるように、目下の所FSAで考えられている事故想定は衝突、坐礁、火災、浸水等からの避難、脱出、人命救助であり、前回のべた海難率、救助率から見て妥当な選定であるが、一般海難からは、これ等に加えて安全性と経年変化の関係を加えなければならないと考える。
機械や建造物は新造時に比較すると、年を経るにしたがって衰耗や変形によって、性能や安全性が劣化する。トレーニングによって能力が向上する人間でも、ピークが過ぎると能力が低下するのが一般的な傾向である。これらについては専門的に研究されているが、ここでは船舶についてわかり易く概説してみよう。
1.2. FSA実現のための方法論;
ここでは[平成11年度(第73回)船舶技術研究所発表会]の金湖論文をそのまま引用。見出し、節番、図番等原文そのままとした。(P.26〜31)