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第2節 電子文書をめぐる法的諸問題

 

1 電磁的記録特有の問題点

 

一般に、コンピュータその他の情報機器で処理されるデジタル文書は「電子文書」と呼ばれている。現行の日本国法令上、電子文書を直接に定義する法律は見あたらないが、電子文書に相当するものを「電磁的記録」として定義する法令は存在する。例えば、地方税法748条は「電子的方式、磁気的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式(第755条において「電磁的方式」という。)で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。」と定義している。同様の規定は、刑法7条の2及び弁理士法22条の2にもある。

このような電磁的記録には、非常に小さな媒体に大量の情報を記録し保存できること、記録された情報の検索が非常に容易であり複合的な検索が短時間にできること、ネットワーク化された情報システムでは場所的・時間的な制約なく情報の検索などができること、統計処理や帳票処理のように記録された情報を加工・再利用するのに非常に適していることなど、幾つもの大きな利点がある。しかし、電磁的記録には、紙に書かれた文書とは異なる問題点もある。例えば、原本性の希薄化、保存上の困難性、複製・改ざんの容易性などがそうである。

 

(1) 原本性の希薄化

まず、一般に「原本」とは最初に書かれた文書を意味する。紙に書かれた文書では、原本に基づいてその複製物である騰本や抄本が作成される。紙の文書の原本は、インクと紙繊維との物理的結合によって文字が物理的に固定されて成立しているので、物体として完全に同じものを2つ以上作成することができない。したがって、紙の文書では、原本こそがすべての基準であり、原本の物体としての管理・保存とその認証が重要である。これに対し、電磁的記録では、文書に相当する電子ファイルにはコンピュータで処理可能な文字コードが並んでいるだけである。そして、文字コードを同じように並べれば、物理的に完全に同一のファイルを複数作成することが可能である。もちろん、電子ファイルであってもその作成の歴史的日付の順にしたがって最初に作成されたファイルをもって原本であるとすることは可能である。しかし、内容的に同じファイルであればどのファイルも同じ価値を有することになるので、歴史的に最初に作成された電子ファイルだけを「原本」であるとするメリットに乏しい。しかも、現実の電子情報処理では、バックアップ・ファイルであっても「原本」として利用されることが決して珍しくない。

 

 

 

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