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次に懸念されることは内容の変質である。法令や規則によって保存や管理、公開を義務づけることができることがらは、文書の作成や系統的分類、保存期間、廃棄の手続等に止まり、その内容には及ばない。記録・保存すべき内容の取捨やその表現は情報を編集する職員に委ねざるを得ないのである。

行政文書の作成者は、これまでは率直に自然体で文書を作成していた。しかしながら、行政情報の原則公開と、これに伴う文書管理制度という新しいルールとが導入されれば、それらの文書が場合によっては公開され、作成目的と異なった目的のために利用されたり、一人歩きして他の情報と結合し思いがけない影響が生じる可能性を意識した上で作成せざるを得なくなる。

これまでも、行政文書の中には、事実を偽らないまでも、省略、抽象化、誇張、雑音の混入等の手法によって、外形をほとんど変えずに実質的に内容を変更したり、修飾しているものもないわけではない。これまでほんのりと薄化粧が施されていた行政文書が厚化粧に変わるおそれは否定できない。

 

4 行政情報提供のあるべき姿と地方公共団体の対応の方向性

 

例えて見れば、情報公開制度は、これまで一般国民に閉ざされていた行政という部屋に入るための鍵が用意されるような仕組みである。しかし、部屋に入った国民は、どこにどんな文書があるのか分からないし、やっとお目当ての文書を捜し出してもその内容が理解できない、あらゆる文書を閲覧しても知ろうとする行政の全体像が把握できないということになりかねない。これでは、開かれた行政の実現や国民の行政参加にはほど遠い。

秘密の小部屋(非開示事項)をなるべく少なくするなど、国民の行政情報に対するアクセス権は大事にして行かなければならないが、行政機関と国民が真に行政情報を共有していくためには、文書による公開という方法には限界があり、制度を補完する、幾つかの方策が必要であることも指摘しておかなければならない。

その内容は今回の研究の目的ではないので詳述は避けるが、国民が本当に必要としている行政情報とは何かを探り、それらを系統的・体系的に明らかにした行政情報公表制度等を整備し、積極的、能動的に行政情報を公開して行くこと、公開する行政情報を断片的な行政文書だけではなく、質が高く分かりやすい内容のものとすること、電子情報による公開を推進し、多角的な検索システムを整備すること、主要な行政分野においては、例えば環境アセスメントなどに見られるように、重要な情報の創造と公開に関するシステムを整備することなどがあげられよう。

このような様々な補完措置と行政機関・公務員と国民双方の意識改革によって、行政と国民の間の距離を縮め、相互の信頼関係の回復に成功すれば、情報の公開と文書管理に関する難問はやがて解消することが可能になると考える。

 

 

 

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