情報公開制度のモデルと考えられているアメリカにおいては、連邦政府の行政機関は、連邦記録法に基づき、情報の適切な記録化と記録管理に関する積極的・継続的なプログラムの確立・維持などが義務づけられており、かなり地位の高いレコード・マネージャーが設置されている。
これに対して、我が国では、レコード・マネージメントという観念に乏しく、国民の権利義務に直接関係することがらなどを除いて、文書・記録に基づいて業務を執行するという習慣が乏しかった。もちろん、文書の保管、保存、廃棄等に関する規則や管理責任者が定められているところは多いものの、実際にどのような文書をどのような形で編綴するかは現場の担当者に委ねられ、監督や監査はほとんど行われていなかった。
このため、一般の行政文書は、情報の伝達や意思決定に際して、行政内部あるいは行政客体との間に交換される断片的なメッセージとして、専ら作成者の都合に基づいて作成・編集されてきた。
情報公開制度の導入に伴って行政情報の記録と管理の改善が行われ、国民に公開すべき情報の範囲や内容が明確にされることは、実効ある制度の確立にとって欠くことのできない課題である。本研究の意義はまさにそこにあり、このような観点から以下に述べるような様々な考察と提案が行われたものである。
3 行政文書管理の困難性と限界
文書管理の改善は開かれた行政にとって必要不可欠な課題であるが、その実現は容易ではない。その主な理由は、必ずしも文書や記録によって進められていない我が国の行政文化である。
すなわち、これまで我が国の行政においては、重要な情報の伝達や意思決定は、根回しや非公式の会議等の口頭を主な手段としていることが多く、大筋の合意や決定を見てから初めて文書化されることが少なくなかった。
その理由は、意思決定に際して、論理や方法論を明確にして論議し、実証的なデータや科学的な推論によって結論を得るよりも、異なった意見を持つ相手側の顔色をうかがったり、腹のうちを探りながら「落としどころ」つまり妥協点を探るといった形で折衝が進められることが多いことや、組織・集団の和が重んじられることから、ひとたびある方向に向けて雰囲気が醸成されると、データや論理よりも全体の空気が尊重される傾向が強いためと考えられる。