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第1章 情報公開と文書管理を取り巻く環境の変化

 

第1節 情報公開制度の理念と行政情報の管理

 

1 情報公開制度への期待と懸念

 

情報公開制度は、近年における行政の専門化・肥大化と政治・行政のゆ着によって生じた代議制民主主義の空洞化を補完するため、国民の行政情報にアクセスする権利を明らかにすることによって、行政情報独占の弊害を防止し、公正で透明な開かれた行政を実現していくことを目的としている。

この制度は、1950年代以降、欧米諸国において導入されてきたが、我が国においても、薬害事件や公害・環境紛争、ロッキード・グラマン疑惑をきっかけとして、制度導入の議論が高まり、1980年代に入ると国に先駆けて山形県金山町や神奈川県において情報公開条例が制定され、以後、全都道府県や政令指定都市などがこれに従った。国においては、行政改革委員会の答申に基づき、昨1999年5月情報公開法が成立し、約2年間の準備期間を経て2001年から施行される予定になっている。この法律に基づいて、法律の趣旨にのっとった努力義務が課せられている地方公共団体においては、既存の条例の改正や新設が進み、国・地方ともに、開かれた行政、公正で透明な行政の実現に向けて画期が訪れるものと期待されている。

しかしながら、この制度によって所期の目的を達成するためには、克服すべき多くの難問が横たわっている。我が国の行政を取り巻く文化・習俗から見ると、運用のいかんによっては、制度の形骸化を招くだけでなく、行政の硬直化など、好ましからざる副作用がもたらされる懸念もなしとしないからである。

これまでの地方における経験を振り返ると、条例の活用によって、カラ出張などの不適正経理や官々接待の実態などが明るみに出されてきた。これらは、集団主義的な体質によるもたれ合いによって、自浄作用が機能しなかった我が国行政の陋習の一つであり、その実情を明るみに出し不合理な慣習の是正に資したという点で、情報公開制度は大きな効果を上げたといえるだろう。しかし、これは、これらの分野においては、たまたま厳格な会計制度があったため、証拠としての文書が残されていたことに助けられていた面が少なくない。

その一方で、大多数の国民が強い関心をもっている重要な行政計画の立案過程やその実績の評価などに関しては、残念ながら、条例は威力を発揮してきたとはいえない。つまり、この制度は、行政の監視、批判という面ではある程度の効果を発揮しているものの、その結果が質の高い行政の実現には結びついておらず、また、国民の行政への参加という目的も達成されているとはいえない状況にある。

 

 

 

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