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3.では、その包括的契約には、どのようなことを盛り込めば良いでしょうか。

紙の船荷証券にできるだけ近い状態を達成するということであれば、紙の船荷証券では、正に裏書し譲渡する(船荷証券自体を引き渡す)というだけで良く、債権譲渡一般で要求される債務者つまり運送人への通知等は不要とされるのですから、電子式船荷証券の場合も、既に述べた「その現在の『所持人』(『裏書人』)から次の『所持人』(『被裏書人』)たるべき者宛に、当該電子式船荷証券の情報及びそれに基づく権利を譲渡する旨のメッセージを送る」だけでよい旨取り決めることが論理的には最も徹底しています。(誤解のないように補足しますと、その際認証機関による認証を取得すべしとか、第三者機関の登録機関に登録すべしという問題は、電子商取引ないしEDI一般においてその信頼性確保のため要求される事項であり、ここで問題にしていることとは別次元のことです。)

一般的には、債権譲渡が債務者に対して効力を生ずる要件として、その債務者への通知等を要件とする法制が多いと思われますが(例:わが国につき、民法第467条第1項、英国法につき、Law of Property Act, 1925 (S. 136)。但し、その通知をすべき者、通知の方式、二重譲渡の場合の優先順位の決め方などの詳細は立法例により異なり得ます。国際条約としては、現在UNCITRALで資金調達のための譲渡に関しその作成作業が進行中です。)、上記のような取り決めを契約に盛り込むことは、電子式船荷証券の下での運送契約の債務者である運送人にとっては、一定類型の債務(=電子式船荷証券の下での運送契約による債務)全般について、最初から包括的に、債権譲渡の自分宛通知が一切いらないということを承諾していることになります。

4.因みに、1990年に万国海法会(CMI)が制定したCMI Rules for Electronic Bills of Lading38 では、電子式船荷証券の「所持人」は、他の者へ権利を譲渡する場合には、まずその点を新「所持人」(=譲受人・被裏書人に相当)にではなく、運送人宛に電子メッセージで通知し、運送人から新「所持人」に通知(及びその後旧「所持人」の個人キー(暗証番号のようなもの)の廃棄と新「所持人」への個人キーの発給)をするという形態を採用しています(Art. 7.b.)。

他方、昨年実用化された(稼動開始した)Bolero B/LのRulebookでは、電子式船荷証券の「所持人」は、他の者へ権利を譲渡する場合には、まずその点を新「所持人」(=譲受人・被裏書人に相当)や運送人にではなく、Bolero B/Lのシステムの運営者つまりBolero International Ltd.の運営するCore Messaging Platform宛に電子メッセージで通知し、同Platformは、その通知に則って現在有効な電子式船荷証券の内容を記録しているTitle Registryの記録を変更したうえ、新「所持人」にさらに電子メッセージで通知するという形態を採用しています。

 

38 これは、一言で言えば、抽象的に電子式船荷証券の発行・流通・回収のメカニズム(換言すれば電子式船荷証券における関係者の権利義務関係の抽象的モデル)を提案したものです。

 

 

 

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