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しかし、このような具体的規定をおけば、それは電子式船荷証券の本来的目的(紙の船荷証券の代替)を超えるものであるという批判があり得るでしょう。

むしろ、上記の契約には、当該電子式船荷証券の「所持人」は、紙の船荷証券における所持人と同様の時点から当該電子式船荷証券上の義務をも負担する旨規定しておくのが、もっともあっさりした方法です。勿論、こう規定しても、上記のとおり、紙の船荷証券の所持人が義務を負う時点がはっきりしていない場合もあるので、結論的には曖昧なのですが、それはやむをえないように思われます。

4.では、そのような規定が一切おかれない場合はどうでしょうか。

その場合は、国内法に電子式船荷証券の所持人の義務についての規定があればそれによりますが(例えば、英国の上記法律には、同法は電子式船荷証券についても拡張適用される旨の政令が出され得る旨規定されています(S.1(5))。そうでない限り、各国法毎に、債務引受17、契約の更改(novation)(電子式船荷証券による運送契約につき義務者(債務者)の「荷送人」から「所持人」への交代という形態の契約更改があったのではないかという意味で)その他の関係法原則に則って判断されることになると思われます。

因みに、債務引受についての日本法の原則は、一般論としては単純ないし当たり前のもので、要は、引受者がその旨の意思表示をすれば、その時点から負う、但し、原則はその場合も原債務者もなお債務を負担する重畳的債務引受であり、引受者のみが債務を負う免責的債務引受になるには、債権者の合意が必要ということです。問題は、電子式船荷証券の所持人がどのような場合に「その旨」つまり電子式船荷証券上の義務を負担する旨の意思表示をしたと解釈できるかであり、例えば英国の上記法律の2]3](1]は記述のとおり商法に既に規定があります)のような場合にも意思表示ありと言えるか、なかなか難しいところです。また、契約の更改と考えても、日本法における一般論はやはり単純ないし当たり前であって、債務者を変更する契約更改には、債権者及び新債務者の合意を要すとされており、問題は、電子式船荷証券の所持人がどのような場合にそのような更改合意をしたと解釈できるかに帰します。

5.かつて1990年に、万国海法会(CMI)が抽象的な電子式船荷証券の発行・流通・回収のメカニズム(換言すれば電子式船荷証券における関係者の権利義務関係の抽象的モデル)として制定したCMI Rules for Electronic Bills of Ladingには、この点の規定は一切ありません。

 

17 電子式船荷証券上の義務の義務者つまり「荷送人」から「所持人」がその義務(債務)を引き受けたのではないかという意味で。

 

 

 

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