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しかし、電子商取引における取引の内容、すなわち通信の内容について争いが生じた場合に、電子署名や電子認証がどのような効力を持つのかということについては、電子商取引が普及し始めてまだ歴史が浅いため、電子商取引に関する商慣行も形成されているとは言い難く、手書きの署名や押印に関する法制度に相当するものも確立されていないわけですので、我が国の「電子署名・認証法案」(仮称)が制定されて、利用者の取引に対する信頼性を構築して電子商取引の安全性が高まることが強く期待されているところです。

証拠には、(1)書証、(2)検証、(3)鑑定、(4)証人尋問、(5)本人尋問の5つの種類があります。この内(1)の書証については、民事訴訟法第219条以下が規定しています。書証とは、文書の記載内容を調べる証拠調方法であること、成立(文書の名義人が本当に作ったということであり、内容が真実かどうかとは無関係)が立証されなければ証拠とできないものです。書証は、実務上もっとも多く用いられる証拠方法であると共に、実務上最も重要な証拠となるものです。従って、書証についてはその成立が訴訟の中心テーマとなることが少なくありません。公的には書証も他の証拠(特に証人)も同じ価値があるといわれています。しかし、裁判では、書証と証言が食違う場合、かなり高い確立で書証の方が信用されます。書証も偽造(変造)されている可能性はありますが、それ以上に偽証の可能性が高いからでしょう。

文書の成立が争われている場合、当該文書を書いた人や、その場にいた人を証人尋問・本人尋問したり、筆跡鑑定する等の方法で成立を立証することになりますが、前述のように証人・本人の供述は必ずしも信用性が高いとはいえませんし、筆跡鑑定も信用性は高いとはいえません。そこで、第228条第四項は、本人(代理人)が署名又は捺印した文書は真正な文書であると推定しました。さらに判例は、本人の印影(判子)がある場合は、本人が捺印したものと事実上推定するとしています。つまり、本人の判子がある場合は判例上本人が捺印したと推定され、本人が捺印した場合は、第228条第四項により真正に成立したと推定されるのです(2段の推定といわれています)。

もちろん、上述の「推定」は、これとは反対の事実(本人の意思に反して押印された)を立証すれば覆り、結局成立の真正は否定されます。しかし、推定を覆すに足りる反対事実の立証は極めて困難です。当該書証に押されている判子が本人のものであると立証されると、事実上当該文書に記載されている内容どうりの事実認定がされる可能性が高いからです。

 

 

 

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