コンテナ船による個品運送の場合には、貨物の海上運送時間が船舶の高速化により短縮されているので、海上運送中の個品貨物が、船荷証券の裏書譲渡によって転々と転売されるといった問題は出てこなくなっています。そうなると、売買契約上の売主と買主の関係、あるいは運送人や銀行が間に入ってくる場合、船荷証券の電子化によって、各当事者の権利義務関係にどのような問題が起きるのでしょうか。現行法の下で、電子式船荷証券を使用した場合に、これらの問題はどうなるのでしょうか。このように議論の焦点を絞っていく必要があります。そういう意味で、電子式船荷証券とか電子商取引の問題を検討する場合、「流通性」というものが何か変わってきたのではないかという感じがします。
既に述べたことの繰り返しになりますが、従来のnegotiabilityというのは、例えば、“to order”とか“to bearer”といった特定の発行形式の船荷証券に限定されています。有価証券という形で船荷証券をとらえるとかなり広い概念となってきます。英米の場合、記名式船荷証券(Straight B/L)は流通性を持たないので、法律上の流通性船荷証券(negotiable Bills of Lading)から外されています。売買契約上、売主が船積みした物品について処分権(the right of disposal)の留保を行う場合に使用するのは、売主またはその代理人の指図人(to the order of the seller or his agent)に引渡される形式の船荷証券です。また、買主宛てに手形を振出し、手形の引受・支払を確保するために、為替手形と船荷証券を一緒に買主に送付した場合、買主は為替手形の引受または支払を行わないときは、船荷証券を返戻しなければならないのであり、買主が船荷証券を不法に所持しても、所有権は移転しないのです。このような効果を、電子式船荷証券と電子式為替手形に期待することは難しいのでしょうか。