9. 平和維持軍には通常、後方支援を得た戦闘部隊が含まれる。以下はこれまでの平和維持活動の例。
i. 敵対する当事者間に部隊を配備し、緩衝地帯または非武装地帯を作り、紛争当事者間の仲介役としての活動。
ii. 交戦回避、武装解除、動員解除、捕虜の交換などを支援しながら、軍事活動を監視・報告することにより、停戦と和平合意の実施を後押しする。
iii. 地元行政への、法と秩序の維持を目的とした支援、安全の確保による自由で公正な選挙の促進。
iv. 人道救援事業の保護――倉庫、配達場所・ルートの安全の確保、人道救援輸送隊の護衛、人道職員の安全の確保、後方支援の提供。
v. 人道事業の支援――危機時において、必須施設、サービス、救援物資用のルート、を維持する技術的な任務の引き受け。地雷その他の武器の処理、人道救援物資の配達、人道機関への後方支援。
国連の指揮下または承認を受けた軍
10. 国連憲章第7章に基づき、安保理は戦闘能力のある国軍や地域軍の配備(deployment)を承認、ないし命じることができる。こうした軍は、国連平和維持軍や監視団よりも厳しい安全原則の下に置かれ、UNHCR職員にとっては施設や情報へのアクセスが一層困難になる。承認された軍は、しばしば活動地域内の文民最高権限者の指揮下に置かれず、自らを非軍事的計画や人道計画を指揮している国際的組織とは全く関係のない組織と認識することもある。
地域機構軍
11. UNHCRは、地域機構(アフリカ統一機構〈OAU〉やNATOなど)の指示に基いて編成され、平和維持や介入を目的とする地域機構軍と協同して活動する場合もある。
国軍
12. 人道機関は、往々にして庇護国の軍、警察、憲兵、民兵などの武装した集団と、調整・交渉しなければならない。UNHCR職員は――特に軍・武装集団側に明確な指揮系統がない場合――こうした集団の支援や保護を受ける利点と欠点を考慮する。
国軍以外の軍事組織
13. 国軍以外の軍事組織は反政府勢力、民兵組織、その他の武装集団からなり、往々にしてほとんど、又は全く規律がなく、指揮系統も貧弱で、政治綱領と呼べるものもない。
◆人道事業で軍が果たしうる役割
人道支援の実施
14. 並外れて大規模な緊急事態では、最後の手段として――例えば空輸などの形で――軍の資産を人道支援の実施に使える。
15. UNHCRは多くの国と覚え書きを交わし、各国政府があらかじめ内容を定めた「政府サービス・パッケージ」(GSP=Government Service Package)という自己完結型の緊急事態支援の提供についての取り決めを結んでいる。パッケージは20種類あり、長距離空輸、陸上輸送、水の供給と浄水処理、保健衛生、道路工事などの特定技術分野、またはロジスティクス分野で支援を行なう仕組みになっている。ただし、GSPは、従来の実施取り決めに代わるものではなく、並外れて大規模な緊急事態で、あらゆる手を尽くした後の最後の手段としてのみ利用される。
16. GSPは規模と経費が極めて大きくなるため、実施要請に対するGSPの費用は、当該政府からの追加的な資金拠出とみなし、かつ、UNHCRへの拠出金を削らずに実施することを前提としている。OCHA(国連人道問題調整事務所)内にある軍事・民間防衛課(MCDU = Military and Civil Defense Unit)も、こうしたパッケージ式の緊急援助や、他の分野のパッケージ援助を利用できるよう各国政府と取り決めを結んでいる。UNHCR内部におけるGSPの開発・配備の責任者は、事業支援局の局長である。詳細は付録1の「緊急事態対応資源カタログ」を参照。