70. どのような性質の有害物や有害生物であっても、農薬(殺虫剤、殺鼠〈さっそ〉剤、軟体動物駆除剤など)による化学的防除法に自動的に頼ることは避ける。こうした薬剤は値段も高く、人間にも環境にも有毒で、化学薬品の運搬、保管、取り扱い、そしてもちろん散布時に中毒になる恐れがある。また、有害生物は化学薬品に対する抵抗力をつけていく。
物理的防除
71. 本章に記載した排泄物と廃棄物の処理策は、有害生物(特にハエやネズミ類)の駆除にも役立つ。
72. 水たまりなど、蚊が繁殖したり潜んでいる場所を排水してなくすことが重要で、排水経路の維持管理が必要である。
化学的防除
73. 最も重要なのは、受け入れ国で使用中の、または使用が認められている化学薬品について詳細な情報(登録農薬のリストなど)を入手することである。
殺虫剤の日常的な散布は避け、いかなる場合も庇護国の規則や手続きに従って実施する。
74. 危険を最小限に抑える一方、狙った害虫をできるだけ駆除するため、専門家、特に昆虫学者の助言を求める。
75. 担当職員は技術面の教育訓練を受け、農薬の取り扱いや散布が人体に与える危険性を知っておく必要があり、また適当な防護服(マスク、長靴、手袋など)を着用して身体を保護しなければならない。
76. 殺鼠剤を使う場合は、必ず医療職員の同意を得ること。ネズミは、腺ペストや発疹熱の病原体媒介生物(ノミなど)の好む保菌動物であり、これらの病気が発生しそうな場合は病原体媒介生物そのもの、すなわちネズミでなくノミに対する直接措置を取ることが重要である。ネズミを退治しても、ノミはネズミの死骸から離れるだけで、人が罹患する危険性は大きくなる。
77. 流行性発疹チフスと回帰熱を媒介するシラミとして確認されているのは、コロモジラミだけである。これが大量発生している場合は、適切な訓練を受けた職員が迅速な措置を取る必要がある。一般に、下着や寝具類に防虫剤を散布したり、衣服用の燻蒸(くんじょう)剤で消毒する。一部の殺虫剤に対して抵抗力のあるシラミがかなりいるので、地元の専門家の助言を求める。
◆一般衛生
◆ 衛生工学は、十分な保健衛生教育、意識向上、コミュニティの参加によって補完する必要がある。
78. 居住環境の衛生、食品衛生、個人の衛生は環境衛生の重要な要素だが、衛生工学というよりは、保健衛生教育やコミュニティの意識向上の問題である。一般教育や保健衛生教育などの活動を持続させるには、現場での目に見える具体的な活動など面によって補完するのが最も効果的だ。
79. コミュニティの参加が衛生活動を成功させるカギとなるが、うまく機能させるには、コミュニティの構成員が自分の任務を遂行するための資源、すなわち人材・組織的・物的資源を持っている必要がある。
80. 生活状態を改善する活動は、用地、コミュニティ、家族、個人といったあらゆるレベルで行なう。衛生の基本ルールは全員が守る必要がある。