◆はじめに
1. 健康とは、医療以外の多くの要因に左右され、医療従事者だけに任せることのできない大きな問題である。本章は、医療専門家でない現場の職員向けに書かれており、保健問題について「医学的な答え」を出すつもりはない。本章では、病気を治療することだけよりも、問題点やニーズ、資源、ふさわしい機関を適切に把握・評価し、プライマリー・ヘルスケアに基づく保健医療サービスの調整などが、難民たちの健康全般にとって重要であることを示したい(図1参照)。保健医療活動にとって欠かせない組織的側面が、しばしば医療を専門としないUNHCR職員の担当となる。
2. 緊急事態では多くの難民が、不安、粗末な住まい、人口過密、安全な水の不足、不適切な衛生状態、不十分または不適当な食糧配給、見知らぬ土地の病気に免疫がない、といった問題に直面する。難民は、病気、栄養失調、飢え、疲労、嫌がらせ、暴力(violence)、悲嘆などで、到着時にすでに衰弱状態にあるかもしれない。貧困、無力感、社会不安といった難民社会に蔓延しがちな状況は、性的暴力の増加や、エイズなど性感染症の拡大にも影響しうる。
3. 世界保健機関(WHO = World Health Organization)は、プライマリー・ヘルスケアの概要を以下のように説明する。「PHCは、当該国のすべての人が利用できる必要不可欠な保健医療であり、人々の完全参加が必要なため、個人・家族・コミュニティに受け入れられる形で提供され、コミュニティと国が費用を負担できる範囲で提供される。万国共通のモデルはないが、以下を含むことが望ましい。すなわち、適切な栄養摂取の奨励、安全な水の十分な供給、基本的な衛生設備、家族計画を含むリプロダクティブ・ヘルス(reproductive health〈性と生殖に関する健康〉)と保育、一般的な病気やケガの適切な治療、主な感染症に対する予防接種、風土病の予防と管理、一般的な健康問題とその予防・管理に関する教育。」
この対策方法では、病気の治療だけではなく、予防が重視される。
図1 保健対策の相対的影響
