国連機関
8. 難民の物的ニーズは、複数の国連機関の専門領域にまたがる場合が多い。特に、UNHCRと緊密な連携関係にある世界食糧計画(WFP)は、難民が必要とする緊急食糧の大半を支給している。各機関の強みや技能を認識し、協力関係に一貫性と先見性を持たせるため、UNHCRは多数の国連機関と「合意覚え書き(Memorandum of Understanding = MOU)」を締結している。これらの覚え書きは、事業計画の実施をはじめ、緊急事態への準備態勢(emergency preparedness)と対応に関する事項(不測事態に対する合同の計画やアセスメント、基準やガイドラインの開発など)も定めている。なかでも特に重要なのは、WFP、国連開発計画(UNDP)、国連児童基金(UNICEF)との覚え書きである(付録3に収録)。UNHCRは、国連人口基金(UNFPA)、国連婦人開発基金(UNIFEM)、世界保健機関(WHO)とも覚え書きを結んでいる。
9. 難民緊急事態における国連組織の対応の調整については、通常UNHCRが責任を負う。
10. 複合的な緊急事態に際して、国連組織の人道援助における協力を強めるために、組織間の調整する国連機関は、国連人道問題調整事務所(OCHA)2であり、調整、政策立案、擁護・提言活動(アドボカシー)を通じてこれを行なっている。複合的な緊急事態については、第7章で定義および詳述する。
非政府組織
11. 緊急事態では、多数の非政府組織(NGO)が難民を援助する。こうした組織はUNHCRの事業協力機関として活動することも多い。その際の責任分担は、資金源がUNHCRであるか否かにかかわらず、これらの組織と政府、UNHCRの間で交わされる実施取り決めにより決定される。詳細は第7章と第8章で述べる。
その他の機関
12. 緊急事態では、他にも多くの機関が事業協力機関として難民を援助している。特に、赤十字国際委員会(ICRC)、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRCS)および各国赤十字・赤新月社は、長年、そうした援助を提供してきた。ICRCの任務には高度な中立性と独立性が要求されるため、調整手続きへの参加や他機関との情報交換が制限される場合もある。
13. 国際移住機関(IOM)などの政府間組織が事業協力機関となる場合もある。IOMの目的は、国際的な移住援助を必要とする人々の、秩序正しい移住をはかることである。IOMは、移住に関する両国(またはすべての国)との合意に基づき事業を行なう。特に自主帰還の支援では、UNHCRと密接に協力している。
難民
14. すべての難民は「UNHCR事務所規程」、「1951年難民条約」、「1967年議定書」に基づき国際的保護を受ける権利のほかに、すべての人々と同様、一定の基本的人権を有する。これらは「国連憲章」(Charter of the United Nations)と「世界人権宣言」に定められている。すなわち生存・自由・安全に関する基本的権利、法の保護を受ける権利、思想・良心・宗教の自由、財産を所有する権利である。難民には、移動の自由の権利があるが、特に大規模な難民流入の際は、治安や地元住民の権利への配慮により、この権利が制限される場合もある。
15. 難民と避難民は、当然ながら、庇護を求める国に対して責任を負っている。「1951年難民条約」第2条は次のように定めている。「すべての難民は、滞在する国に対する義務があり、特に法令を遵守し、公の秩序を維持する措置に従うことが求められる」。難民の地位は市民としての責任を免除するものではない。
2 旧名称はDepartment of Humanitarian Affairs。