1] 発行機関
単一目的のために発行されるICカードの発行主体は問題がないが、1枚のICカードで複数機関に及ぶ複数サービスが可能なようにする場合の、そのカードを複数機関のうちのどこが発行主体になるべきであるかは検討を要する問題である。特に複数の省庁に関係する場合の主導権、責任体制は事前の調整が必要となる。これは従来からいわれている権限争いにとどまらない新しい事態であること、特に責任の所在が自省庁の所掌事務を超えることになること等から極めて難しい課題であると考えられる。
例えば、住民基本台帳ネットワーク構想の住民票カードを行政サービス用の多目的総合カードと想定すると、発行主体は第一義的には自治省が発行機関となるであろうが、そのカードの利用範囲が拡大し、運転免許、社会保険等の国のアプリケーションや県、市町村において利用し、あるいは対面方式およびネットワークにおける本人確認の手段とすることになると、発行主体が自治省でよいのかという議論がでるであろう。
2] 発行対象者
上記の発行主体と同様の事情から、発行対象者についても、単一目的のカードと異なる問題に直面することとなる。すなわち、発行対象者の資格、制限が行政サービス内容によって異なることをいかに調整するかという問題があるのである。特に、年齢制限、各種給付等における資格要件等の違いをどう処理するかが用意されなければならない。住民票コードに基づくカードの場合、コード自体は出生にともなう住民登録時に付与されるであろうが、カードはその時点で発行されない。住民票カードが本人確認の手段として公式なものとなる場合、極端な例であるが、西欧諸国のように銀行口座を開くときにIDカードが要求されるとすると、ゼロ歳の子供の本人確認も必要となるかもしれないのである。
3] 発行方法
住民基本台帳ネットワークの場合のように、論理的には1億3千万人の全国民へもれなく、重複なくコードを付与し、適格者にカード配付することはきわめて難しい。現在、本人確認の手段がないのであるから、カードを付与する場合に、本人であるか否かをチェックすることが原理的には不可能であるという事情があるのである。