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2] 写真なしの公的証明書

 

写真付きではない証明書を本人確認の手段とすること自体に無理があるが、国民身分証明書の類がない日本においてはやむを得ない措置として、公的機関が発行した2点の証明書を提示すれば本人であることの確認とするという慣行がある。この場合の証明書の代表的なものが、健康保険証と住民票の写しであろう。この2点を併せ提示すればよいというのである。

しかしながら、この手続には重大な欠陥があり、完全な本人確認の手段とはならないのである。すなわち、住民票の写しは住民基本台帳法によって何人でも写しの発行を求めることができることになっており、市長村長は不当と判断される場合は拒否できるとしているが、名簿屋の大量の請求や差別問題がからむと判断される以外は拒否することは困難であるのが実態であろう。事実、窓口において住民票の写しの発行に関し厳密なチェックが行われことはない。住民票の写しというものがこのような性格をもつものである以上、保険証を何らかの方法で入手した者は、住民票の写しを請求、入手すればこれら2点で本人になりすますことが可能になるのである。

 

3] ネットワーク上の本人確認

 

以上のように従来の方法による本人確認は欠陥があり、問題があるとしても、一応使用してきたものであるが、ネットワーク上での本人確認はさらに困難である。出頭、対面で間に合わせの証明書を提示することによって何とか実施してきたが、これらの手段はネットワーク上ではまったく通用しないことは明らかである。現在、ネットワーク上での公的なサービスの授受の際に利用できる手段は、一部地域を限定した場合や試行段階のものを除き皆無である。

このように、ネットワークを活用した新しい形態の行政サービスが求められ、その実施に向けて検討が開始されている状況にあるにもかかわらず、その必須条件である本人確認手段がないという問題に直面しているのである。なりすましどころか、本人であってもネットワーク上でそれを証明し、主張することができないのである。

住民基本台帳ネットワークによる住民登録データを記載したICカードがこのネットワーク上の本人確認手段として現時点では現実的な方策の唯一のものであり、それだけに期待されるところであるが、その導入までには未だ多くの解決されるべき課題があることも確かである。例えば、行政側の問題としては、既存の住民基本台帳システムの変換あるいは接続性の確保、市町村、県、国をまたがる標準化あるいは整合性、接続性の確保、県、国の既存アプリケーション・システムとの連携等があり、国民側からはプライバシー侵害の不安という問題が提起されている。

 

 

 

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