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5.3.3 生産方式の改革

● 近隣諸国との国際競争に打ち勝つために繰り返し生産へ

九州・沖縄地区は、日本国内の相対的な比較において、労働力供給の豊富な、賃金レベルの低い地域である。造船業・舶用工業は労働集約的な産業であるから、労働力供給に恵まれている九州・沖縄地区は、国内の他地区同業者との競争に関する限り、有利な条件を備えているといえる。しかし、今後、東南アジアの船舶需要を獲得するために、韓国・中国など近隣諸国との国際競争に打ち勝つ必要がある。中小造船業・舶用工業は、日本より大幅に低い賃金レベルのこれら諸国に対する競争力を付けるために、今後、生産性を飛躍的に向上しなければならない。

現在、日本の製造業で主に行われている、ロット生産に代表される繰り返し生産方式は、同じ製品を繰り返し生産する間、ムダを省く改善を累積できるので、大きな生産性向上を期待できる。改善の累積効果は、繰り返し生産の大きな利点の一つである。造船業はいまだに殆ど個別生産方式を踏襲しているが、作業の繰り返しが少ないので改善を累積できず、基本的に生産性向上が難しい。即ち、近隣諸国とのコスト競争に打ち勝つために、繰り返し生産への移行は不可欠の条件である。

● 新規事業における他業種との競争

海上輸送及び漁業の総需要の伸び悩む現在において、中小造船業・舶用工業は、操業量確保のために、在来船舶建造以外の新規事業を開拓する必要がある。候補として、人が楽しむ道具となる船、土地の狭さを補う浮体構造物、あるいは他形態の輸送を海上輸送に置換する船などが挙げられよう。さらに、本調査に提案の新規開発技術を応用する、環境保全につながる新製品は、将来大きな需要が見込まれる。

事業を上述のような新規範囲に拡大するとき、競争相手は、遊具や建築物、陸上輸送手段、あるいは、ポンプ、タービン、冷却装置などの機械類を生産する異業種となる。即ち、新規需要の開拓を目指すとき、競争は中小造船業・舶用工業の範囲内にとどまらず、専ら陸上の製品を製造する業種との競争になる。これら業種は、殆どロット生産方式によって高い生産性を上げている。新分野に進出する技術開発に成功したとしても、生産コストにおける競争に敗北するのでは、新分野参入は実現できない。個別生産方式からの脱却は、新分野の事業を成功に導く条件としても不可欠である。

● 設計の絞り込みとリミットデザイン

繰り返し生産では、習熟性工学として経験的に立証されている通り、累積生産数の対数値に比例して生産性は向上する。即ち、ロット数増加が重要である。そこで、新設計船舶を減らす努力が要求される。即ち、市場調査によって売れ筋のモデルを絞り込む。

 

 

 

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