日本財団 図書館


● 海洋深層水の多目的利用

海洋温度差発電の経済性を高めるために、図2に示すような多目的な利用が近年積極的に検討され、海洋深層水の利用に関して様々な分野で精力的な研究開発が行われている。

海洋温度差発電では、表層の温海水と深層の冷海水を多量に利用する。特に、この海洋深層水は、安定的な冷熱エネルギーを保有し、海洋での基礎生産に必須の窒素・リン等の栄養源に非常に富んでいる。例えば、この海洋深層水が自然に湧昇している海域は大漁場となっている。地球上にはこのような湧昇海域は全海洋面積の0.1%しかないといわれているが、湧昇海域のみで世界の魚類生産の半分を賄っているといわれている。

このような海洋深層水を有効に利用する検討が日本及び米国を中心に近年一層積極的に行われている。米国では、ハワイにある深層海水研究所、国内では、既に高知県海洋深層水研究所(1989年設立)、富山県水産試験所の深層水利用研究施設(1995年完成)で研究開発が行われており、2000年には沖縄県久米島において深層約600mから日量約15000トンの海洋深層水を汲み上げる研究所が完成する予定である。

海洋が保有する冷熱エネルギーも、発電後十分に空調用として利用可能であり、その量は膨大である。化石燃料を用いた火力発電による電気を空調設備に利用する場合と比べて大幅な二酸化炭素削減になる。一方、この冷熱を利用し淡水化装置と海洋温度差発電をハイブリッドに組み合わせることにより、化石燃料を用いずに淡水を進水することができる。このように現在、地域振興を目指した海洋深層水に関する幅広い分野での研究開発が、産官学の有機的な連携のもと精力的に行われている。今日その中心的役割を担っているのが平成9年1月に設立された海洋深層水利用研究会である。海洋深層水を利用した食品、化粧水など50種類以上の商品が既に開発されており各方面で注目されている。また、海洋深層水がアトピー性皮膚炎の補助療法として期待されるなど、医療面での研究開発も活発である。

海洋のもつ熱エネルギーと海水の保有する物資の特性を総合的に利用することによってトータルのエネルギー効率を高めるとともに、海洋温度差発電の発電コストを相対的に下げることができる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION