日本財団 図書館


● 略記多く厳密な規則のない造船図面

造船の図面を他産業、特に機械製造業の図面と比較する。個別生産を行っている造船業では、毎船個別に設計を行う必要があるから、設計作業を少ない時間で完了させる必要性は特に高い。また、船舶を構成する構造と艤装は板金構造及び配管電線という単純な形状の部品の比率が高い。そこで、造船の図面は、作図簡略化のための省略符号・記号を多用している。一方、厳密な製図規則がJISに定められている機械の図面に比べると、造船の図面には厳密な規則はない。ここで、企業間の情報と人材の交流を行うとき、情報を相互に共有化し利用する必要が生じる。上述のような図面標準化の不備は、次のような問題の発生が懸念された。

1. 中小造船業・舶用工業の相互の間において、協業と分業を行うときに、情報を正確に伝達することが出来ない。

2. 大手造船所と中小造船所間の人材の交流、一時派遣において、教育に手間取り交流を実現することは出来ない。

● 大まかに共通化された図面を熟練者頼りで使用

造船の図面は、細部の標準はないが、次のように、重要な点は大まかに共通化されている。

1. 造船業の長い歴史の中で培われた慣行によって重要な点は大差がない。

2. 部品の発注受注の関係で相互に図面を理解するチャンスが多い。

3. 図面の外注先が共通であることによって間接的に標準化が進んでいる。

現在、設計の情報は、図面という目に見える形態で交換されている。また、中小造船業・舶用工業の企業規模は小さく、且つ従業員は一般に長い経験を持つ熟練者である。この場合、細かい表現法の差は、曖昧さを処理できる人間の画像認識能力、および熟練作業員の頭脳に蓄積された造船の知識ベース引用によって、適切に翻訳又は修正処理される。そこで、現状の図面でも、内容の判読不能又は食い違いなどの問題は、幸い殆ど発生していない。

● 将来ディジタル情報化のときに困る

今後、コンピュータを利用するディジタル情報の交換が進行すると、情報交換上の問題は顕在化する。全く融通の利かないコンピュータは、表現する規則の差を適切に処理する能力はない。そこで、交換する情報を有効に利用するために、全て、曖昧さを処理できる人間の画像認識能力を経由する必要が生じる。この場合、折角のディジタル情報交換の利点は大きく損なわれることになる。即ち、情報交換のディジタル化を視野に入れる将来に向かっては、図面規格の統一は重要な課題となる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION