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狭い工場を最大限に活用することに努めている工場は、作業員の移動距離が結果として短く、使用する道具も手近に置いてある。半自動溶接機を工場の壁に取り付けたブームの先端に釣り下げ、最小限の力で引き寄せる改善を実施済の工場もあった。見学の印象であるが、それらの工場における、上述の「ムダ」は、大手も含む造船業の平均より少ないと推定できる。大手造船所に比べ狭い工場を最大限活用する努力によって、自然に人と物の移動距離は小さくなり、その結果、「ムダ」は減少し、外注単価の範囲内、あるいは同規模他社との競争に勝るコストで生産出来る競争力を生んでいる。

実態調査を行った造船所において、これらの「ムダ」排除を意識的に行っている例は確認できなかった。しかし、狭い工場における改善事例をヒントに、作業員の行っている「ムダ」の発見に努め、その対策となる小額の投資を行うことによって、全ての工場において、大きな生産性向上を期待できる。

 

4.5.4 NCガス切断機導入の効果と生産規模の制約

NCガス切断機の使用は、部材精度の向上と部材形状データベースの確立という両面の効果があるので、造船工程における機械化の第一歩である。部材精度の向上は、上述した精度不良修正の「ムダ」排除に役立つ。

しかし、中小造船所にNCガス切断機を導入する場合、その1台の処理能力は中小造船所1工場の必要能力を超えるという規模の問題がある。即ち、NCガス切断機は1台で月産1000トン程度の鋼材を切断する能力があるが、月の鋼材処理量が1000トンを超す規模を持つ中小造船所は少ない。そこで、中小造船所が単独でNCガス切断機を持つと、稼働率不足による償却負担が大きくなる危険がある。即ち、中小造船所におけるNCガス切断機の自社保有は、協業と分業による、切断工程生産量の累積拡大が前提になる。

最近、現図展開とNC切断用のデータ作成は、パーソナルコンピュータで可能になり、中小造船業で負担可能な、小額投資で実行可能になっている。一方、鋼材メーカーは、鋼材に付加価値を付ける目的で、直接、又は、各地に散在する系列の鋼材加工会社において、NCガス切断を引き受ける。

現在、切断用データ作成まで自社内で行い、NCガス切断は専門の鋼材加工メーカーへ委託する方法は、もっとも経済的である。今回、実態調査を行った中に、鋼材加工メーカーへの切断委託によって、現図作業のコンピュータ化と、ガス切断のNC化による生産性向上を実現している造船所があった。

 

 

 

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